君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を





「なんで親父がそんなに知ってるのさ」

「仲良しだもん。 他にも色々知ってるよ。
 羨ましいか?」


ニヤニヤ笑うので、僕は思わずムッとした。 「別に」自分勝手な話だが、僕よりも彼女を知ってる人間が居るのが、気にくわない。 父親や、彼女の恋人のあの少年。

腹の奥がむかむかした。


「あの学者さ、“娘のつぐみと一緒にクリスマスを過ごしました”的な事言ってたよ」

「あらまっ」


父親は眉間にシワを寄せた。
先ほど僕の様子を見て見せたふざけたしかめ面とは違う。 心底嫌悪しているような顔だ。

僕も同じ気持ちだった。 思い切り顔を歪めたかった。


あんな、とんでもない嘘吐き野郎が自分の父親だとしたら、僕は間違いなくグレると思う。 ――――グレる度胸があれば。

それなのにあの子は、普通の女の子とは呼べないが、真っ直ぐで正直だ。 見た目や体つきも、唄も声も素晴らしい。

なんであんな父親から、あんな子が生まれたのか不思議だ。 似てない。

あの子は、父親がテレビで「娘とはとても仲が良いです」とほらを吹きまくっているのに対し、どう思っているのだろう?

それを考えると胸が痛む。


「むかつく野郎だねえ。 顔が良いだけで」

「あの顔の良さだけ受け継いだのは素晴らしいと思う」

「同感」


親子揃って腕を組み、顎に拳を当てた。

目の前のチーズケーキは放置されっぱなしだし、紅茶も中の氷が溶け出して水っぽくなってる。










「これ、食べちゃいますね」








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