君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を
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カルボナーラが私の目の前に来たので、スプーンとフォークを手にした。
「え、何? もしかしてパスタ食うのにスプーン使う派? おハイソな人だなこの人は」
「ほっといてよ。 これが一番食べやすいんだもん」
「っていうか僕のチーズケーキ食ったよねさっき」
「今その話してた?」
「チーズケーキ返せよ」
「吐いてもいいなら」
「汚ねぇよ」
パスタを数本フォークで取り、スプーンの上でクルクル丸めて口に運んだ。
「うん、美味しい」
「チーズケーキも美味しかっただろ?」
「嫌な奴だなぁ」
卑屈な調子で、カウンターの上にあるケーキが乗っていた皿をコツコツと指先で叩く相楽。 いじけたその表情が可愛いと思ったけど、何も顔や行動に出さなかった。
この人の事が好きだけど、私には函南くんが居る。 彼を悲しませるような事はしたくないから、この人とは必要以上に接近したら駄目だ。
だって、接近しても叶わない。
この人には“恵美”っていう人が居る。 きっとそれは恋人なんだと思う。 好きって言っても意味が無い。
「お前さ、あのテレビに出まくりの父親とは本当に仲良しなの?」
「何さ突然。 誰から聞いたの? 超キモい」
適当に答えて、パスタを一口食べた。
「おい」相楽の声が低くなった。 眉間にシワを寄せ、怒った顔をしている。 少し怖いと思った。
「真剣に訊いてんだけど」
「…………関係あるの?」
「まあ、そりゃ無いけどさ」
「じゃあ訊かないでいいじゃん」
そう言ったはいいが、内心は沢山話を聞いて欲しい気持ちでいっぱいだった。 話したいし、…………抱き締めてほしい。
昨日の函南くんとの事があったので、この人に対しての気持ちは処理できたと思っていた。 だが、できてなかった。
今はっきり解った。 この人が大好きだ。
函南くんよりもずっと好きだ。 比べ物にならない。
私が本当に一緒に居たいのは、相楽だ。
この人が死ねと言ったら、私は死ぬと思う。 笑えと言ったら笑うし、泣けと言ったら大声で泣ける。
私が作った歌を、相楽が自分の物にしたいと言ったら、――――多分了承出来る。
函南くんも好きだけど、相楽に対してのものよりは幼稚な感情かも知れない。
彼に申し訳が立たないという考えが、もし私の中から消えたら――――。
間違いなく、相楽の腕の中に飛び込むだろう。
。