君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を






目の前の皿に盛られた、白いソースを掛けられたチーズ風味の洋麺を私が全て食べ終えるまで、互いに口を開く事はなかった。 オジサンはカウンターの奥にあるカーテンの向こうに行ってしまったので、今ここには私と相楽の二人だけだ。


「あの草野芳彦が君の父親ってのは合ってるよね?」

「合ってる」


食べ終えた皿を脇に置き、コーラのコップを手に持った。


「アイツがテレビで色々嘘吐いてる事を言いたいの?」

「そうそれ。 第三者の立場から見たら、超胸くそ悪い事なんだけど」


私は自分のコーラを飲み、相楽はもう水っぽくなった紅茶を飲んだ。 ストローを使わずにそれを飲む相楽の喉仏が、液体を飲み干す度に僅かに動く。


「何も口出ししない事にしてるから。 部外者は黙ってて」


カウンターに肘をつき、左手側にある液晶テレビに視線を向けた。 点けてあるが音は消してある。

視界には入らないが、相楽の目が私を見ているのが解る。 見られてる辺りが焼け付くようにジリジリするのだ。 手が震えてないか心配になった。


「あっそ」


相楽はそれだけ言うと、席を立った。 早足で私の居る場所から遠退いて、やがて店のドアを開けて出て行った。

彼の座っていた席を振り返ると、食事した代金が、紅茶の入ったコップのコースターの下に挟んであるだけだった。




凄く寂しくなった。









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