君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を





さて先日のクリスマスの夜だが、私は函南くんとセックスした。
函南くんは不器用で、以前した時とは違う新しい事をしようと頑張っている様子だったが、緊張し過ぎて少し乱暴だった。 「あ、ごめん! …………痛かった?」と訊いてくる表情がとても可愛かった。



事が済んだ後、眠る彼の寝顔を見ながら、心の何処かで、もう大丈夫だと思っていた。
きっといつか、函南くんを心から愛せるようになれると。





しかし、

こうやって書斎の机に座り、パソコンとノートを前にする。 そうして曲を作ろうとすると、頭に浮かぶのは函南くんではない人なのだ。


大丈夫だと思ったのに。

つい一時間前にカフェで遭ったからか、それとも呆れたように「あっそ」と言われたからか、…………とにかく、相楽の事が頭から離れてくれない。


「―――――ああー」


口から漏れたメロディー。
何時もなら歌詞が一緒に出てくるのに、今回は出てこなかった。 何を歌えば良いのか解らない。 どうすれば良いのか解らない。


メロディーを口ずさむうちに焦れったくなった。
席を立つと、早足でリビングに向かう。 ソファーの脇にあるギターケースを開けると、片手に持って書斎に戻った。


勢いつけて椅子に座ると、キャスターが転がって机にぶつかりそうになった。 踏ん張ってギターを抱え、考えるより早く指が動いた。



「あああ ああ あ あああ ああ
 あああ ああ あ あああ ああ
 ああああ ああ あ―――――」


高めの音が続き、喉が震える。








「――――愛してる」








そこで後悔した。
なんでこんな言葉が続くのだろう?

そしてこれは誰への唄なのだろう?


少なくとも函南くんではない。
そして本当は、相手の確定している唄である。



封印するように、出来上がった曲が書かれたルーズリーフの束を引き出しに入れ、その日は寝た。





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