君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を







翌日、ベッドから起きてリビングに行った。 携帯を開いて見ると時刻は8時36分、メールが一通、函南くんから。


『冬休みの宿題が終わったから、今日どこか行こう』


早いなーと思いながら、ポチポチ返信を打つ。 もちろん答えはOK、のつもりで打った。 だが、


『ごめん、今日は無理だな。 生理痛がすごくて』


などという、男からしたら対応に困ってオロオロさせてしまうような内容のメールを打って、送信してしまった。 無意識だった。

ちなみに生理痛はもともとそんなに酷くないし、今月の分は先週に終わった。 つまり、このメールは嘘だ。


大変に長々しい溜め息を一つ吐いた後、私はソファーに沈み込むように腰掛けた。 朝から非常に憂鬱だった。


手近に転がっていたテレビのリモコンを取ると、電源を入れた。


『――――とても残念なニュースです』


薄型の箱の中で、朝の顔とも言える大物キャスターが、口をパクパクさせて喋っている。


『昨日未明、都内マンションで人気女優・桜沢恵美さんが首を吊っているのを、様子を見にきたご家族が発見されました』


と、モニターに映った茶髪で華やかな印象のある美女の写真。 大分どうでもいいニュースだったので、ソファーに寝そべって目を閉じた。 ニュースの音声をBGMにして二度寝をしようと。


『少し前に、付き合ってた相楽俊太郎と破局したってニュースがあったでしょ?』


目を開いた。
画面に、ベテランのリポーターの中年男性が映っており、持ち前の情報を先入観を交えて自慢気に喋っている。


『多分さ、彼女はその時期あたりからうつっぽかったと思うんですよ。 女優の中でも、繊細な感性を持ってると評判でしたから』

『すると、相楽さんとの関係が無くなった事が、今回の自殺の原因でしょうか?』

『一概にそれだけのせいとは言えないけど、可能性はありますね』

『相楽さんの事務所からのコメントには“破局のニュースが出るよりも、ずっと前から関係は無くなっていた”とのことですが』

『余程未練があったのか、別れ方が散々だったのかでしょうねぇ』


全身が凍った。

先日、相楽とオジサンがしていた会話に出てきた名前だった。

そして今、明らかに相楽とその女性が交際していて、別れたという事を知らされた。 知らなかった。


『彼、今どう思ってるでしょうかねぇ』


と、したり顔でコメンテーターが言って、次のニュースに移った。

その眼鏡面をぶん殴ってやりたかった。 何も知らないくせに、自殺したのは相楽のせいだと見た人に思わせるような言い方、人として最低だと思った。



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