合縁奇縁~去る者は追わず来る者は拒まず
<おおもり、おおもり……>
降車駅を告げるアナウンスに助かったとばかり、ドアが開くなり駆け出した。
急ぎトイレに駆け込んで、バックから化粧落としを取り出した。
この歳になると、なまじっかな化粧直しより、洗って一からメイクをし直した方が早いのだ。
だから化粧セットはいつも持ち歩いている。
わたしはすっかり化粧を落とし、化粧水と乳液を付けると、アイラインと眉を描き直し、何食わぬ顔でトイレを出た。
どうせ後はマンションに帰るだけだと、後ろに括った纏め髪を解いて歩き出す。
誠と暮らし始めてから髪を伸ばした。
だって、彼が長い黒髪が好きだと言ったから。
それが何?!
あの女は、超乙女チックなショートボブだったじゃない!!
明るい栗色に染められた柔らかそうな髪には、フワフワリボンが結ばれていた。
まさかロリコンだったとはっ!!!
わたしは怒り沸騰、髪振り乱してズンズンと歩いていた。
だから……、その一部始終を誰かに見られていたとは、露ほども気付かなかったのだ。