合縁奇縁~去る者は追わず来る者は拒まず
「わかる? 彼氏に捨てられちゃった」
ハハハ……、と笑って誤魔化してはみたものの、マサさんの顔が一瞬翳る。
「ってぇ、あのいつも一緒の男かい?
なんだってまた急に、つい先週も二人で来てたじゃないかい?」
ふてぇやつだ、と呟いて彼は包丁を布巾で拭った。
「わたしも寝耳に水。
二股かけられてたなんて全然わかんなかった。
鈍いにも程があるよねぇ」
自分のおでこをペチっと叩いて、わたしはいつもの定位置、カウンター奥、マサさんがわたしの左手に見える席に座った。
ここは彼の手さばきが良く見えて、かつ、出入りする客が一望できるベストポジションなのだ。
誠ともよくこの店で待ち合わせをした。
だいたいわたしが先に着いて、この席で奴を待つというのがお決まりだったから。
いつもの見慣れた景色に、ちょっとだけセンチメンタルな気持ちになるのはしかたない。