合縁奇縁~去る者は追わず来る者は拒まず


「マサさん、いつものお願い、お腹ペコペコなんだぁ」

「あいよっ、まかせとけ!

腕によりをかけて、鯵のなめろう飯作ったる!」

マサさんは、鯵を一尾カウンターのショーケースから取り出すと、器用な手付きで三枚におろし出した。

この店のなめろうは天下一品なのだ。

「で、とりあえずビールもお願い」

わたしの声に反応して、アルバイトの男子がわたしに生ビールを注いでくれた。

蒸し暑い外よりは幾分ましなものの、まだ少し汗ばんだ身体に冷たいビールが染み渡る。

「くぅ~、美味いっ!」

一気に半分ほど飲み干して声を上げた。

「いつもいい飲みっぷりだな、春ちゃんは」

「どうせ、恥も外聞もない三十路の売れ残りですよぉ~だ」

「何言ってんだい、女は三十からっていうぜ。

春ちゃんなんて、まだまだ熟女とは言えねぇなぁ~」


マサさんがそう言ってニヤリと笑った。

彼は推定四十半ばの、口の割に優しい目をしたナイスミドルなのだ。
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