合縁奇縁~去る者は追わず来る者は拒まず
「あぁぁ~~」
その顔には見覚えがあった。
企画書の製本を依頼しに総務へ出向く度、目にしていたその顔を思い出した。
印刷受付窓口の青年だ。
ついでに、年若い彼の丁寧な仕事振りにいつも感心していたことを思い出した。
確かに、それなら彼がわたしの名前と顔を知っていても不思議はない。
「やっとわかってくれたんだ」
そういい終わるか終わらないか、彼は直ぐに眼鏡を外すと、また上着のポケットに眼鏡を無造作に戻した。
「えっ? あれっ? 伊達眼鏡なの?」
「真面目なフリでもしなきゃ、総務の仕事なんてやってらんないでしょ」
ここ座りますよ、と奴は返事も待たず、そのままわたしの隣りに腰を下ろしてしまった。
「とりあえず、僕もビール」
山城一騎はマサさんが差し出した冷たいタオルで手を拭くと、そのままそれを首に当てた。
「気持ちいいぃ~」
そう言って崩れた彼の歳相応の間抜け顔を見て、わたしは小さく溜息をついた。