合縁奇縁~去る者は追わず来る者は拒まず
「春さん、何号室? 鍵は?」
いつの間にかわたしを「春さん」と呼ぶ山城だったが、背負われている身として聞き流すしかない。
「701……、バッ…ク……」
まぁ、今は彼のご好意に甘えるとしよう。
兎に角、真っ直ぐ歩けないのだから。
「へいへい」
彼のしっかりとした足取りに、安心してまどろんでしまう。
見た目はひ弱そうだけど、結構逞しいじゃない、なんて首筋に鼻を擦りつけた。
「くすぐったいから止めてくださいよ」
「いいじゃない、減るもんじゃなし、良い匂いなんだもん」
「……春さんこそ……」
山城が小さく呟いたその声は、その時わたしの耳にまでは届かなかったのだ。