ミッション#メロンパンを争奪せよ!

友達

はぁ、はぁ、はぁ。
唯人君、やっぱり歩くのも速い。
5分廊下を走って、やっと背中が見えた。

「唯人君っ!」
「…新島!」

突然現れた私に、唯人君は少しおどろいたように返事をした。

「はぁ、はぁ。…足、歩くのも速いね。」
「…そうか?ていうか、後ろに誰かいるなぁとは思ってたけど…。新島どうしたの?もうすぐ掃除始まるけど?」
「嘘。あと10分あるよ。それにいい。サボる。」
「そんなキャラじゃなくね?」
「唯人君、私のキャラなんて知らないんじゃない?」

「…表向きくらいだったら知ってた、かな。」

………ええええええええええええええ!?

「…嘘!?」
「嘘じゃねェし。つーか、なんでそんなに驚いてんだよ。」
「い、いや。びっくりしちゃって。」

だ、だって。
唯人君になんて、知ってもらえないと思ってた。
後ろなんて振り向かないと思ってた。

ただひたすらに。
唯人君を見つめて。
一人で満足してた私。
見られなくてよかったと思ってたもん。

でも、見られないのは悲しいから、メロンパンを狙いに行ったのに。


「ていうか…唯人君、私の事知ってたの?」
「…知ってたっちゃ、知ってたよ。同じクラスの新島。いつも本読んでて、真面目そうな奴。でも、大変そうな先生とか、困ってる奴とか、よく助けてたろ。」

…確かにあるよ。
困ってた人、助けた事あるよ。
だっていっぱい荷物持ってたんだもん。
先生だってそうだよ。
大変そうだったんだもん。

「…地味だけど、悪いやつじゃないなって思ってた。」
「…思ってた、って…。わ、私、悪い奴だった!?」
「ち、違う!…ホントはけっこう、変な奴だった。」
「へ、変…。」

変…。
変…。
変…。

「お、落ち込むなって!」

あわあわと慌てる唯人君。
いや、そんな事言われたって…。

くしゃっ
髪がなでられる。

…え。

「…印象あがったよ。なんかいろいろと一生懸命で、足速くて、面白くてさ。…俺なんかに、こーいうふーに接してくれて。」

唯人君の手が、くしゃくしゃっと髪をなでる。


〝真衣ちゃん。〟


「…。」
「…!?え!?なんで!?なんで泣いてんの!?」

つーッ、と頬に涙が伝った。

「ご、ごめん…。」

止まらない。
どうしよ。

「…ごっ、ごめん。ごめんね。」


「…別に謝んなくていいよ。泣きたきゃ泣けよ。構わないから。」


それからは、べつにうわぁぁんとは泣かずに。
ぽろぽろと流れる涙を、ただぽろぽろと流した。

唯人君はその間、優しく髪をなでてくれた。




その手が、優しいあの手を思い出させる。

〝紗緒。〟


そう優しく話しかけてくれた、あの子の手を。
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