【B】(第一夜完結)Love around ※第二夜準備中
3.トラブル -李玖-
勤務初日。
地味子で目立たずに行こうと心に決めたその夜、
後輩の風深に呼び出された私は近所のお店へと顔を出す。
車を運転して帰らないといけないからアルコールは一切なし。
風深と二人、注文したお好み焼きをつつきながら
お互いの話を吐き出しあう。
勢いに任せて吐き出す言葉はその場限りのストレス発散。
「先輩~今度ぉ~歓迎会なんですぅ~」
なんて今からため息全開の風深。
「まっ、あそこの歓迎会乱れるから風深も覚悟していくんだよ」
なんて話ながらも、脳内に思い出されるのは忘年会での一幕。
あぁー、もうむしゃくしゃするっ。
「風深、ごめん。
夜、送ってくんない?
もう飲むっ。
私、飲まなきゃやってらんないわ」
そうやって大声で叫ぶと勢いに任せてビールを注文。
運ばれてきたビールをグイっと飲み干すとほどよく心地になってきた。
「先輩~」
心配するように声をかける風深。
そのままお好み焼きを食べ終えてアルコールも進んで、
心地よくなりながら店を後にする。
車は風深に頼んで近所のコインパ-キングにIN。
私は風深の愛車のS2000へと乗り込んで助手席に座る。
エンジンの音が鳴り響くとハンドルを手にした風深の表情が変わる。
「さっ、先輩。
しっかり座っててくださいよ」
先ほどまでの語尾が伸びる話し方ではなくてキビキビとした口調へ変貌する。
忘れてた……コイツ、ハンドル持ったら性格も話し方も変わるんだった。
ため息をつきながら、
乗ってしまったものは仕方がない。
しっかりとシートに体を沈めて両手で取っ手を掴んで、
重力に振り回されないようにしがみついた。
家に辿り着いたころにはちょっと酔いかけの状態の私は、
そのまま布団に突っ伏した。
一夜過ぎて……勤務二日目。
「にゃー」
すり寄ってくるアンジュ。
「李玖~何してるの。
起きなさい、朝よ」
そうやって扉の向こうで叫ぶのはお母さんの声。
私は母子家庭。
父親は小学生の時にすい臓がんで亡くなったから、
それ以来、母が一人で私を育ててくれてる。
父親の病死も背景にあって、その時の看護師さんに憧れて
この仕事に私もついたんだけどな。
すでに精神的に参ってる。
だからかな……朝、布団から這い出すのもちょっと大変。
母の声を受けて重だるい体をベッドから起こすと携帯電話を引き寄せる。
時間は……6時15分。
6時前には起きないとって思ってたのに。
今日はただでさえ車が家にないんだから。
「アンジュ。
もう少し早く起こしてよ」
なんて今も私の布団の上で、
アンモナイトになってる愛猫に愚痴ってみる。
アンジュは、ふわぁーっと欠伸をして何事もなかったように目を閉じる。
早々に着替え終わってメイクを10分で終わらせる。
私にしてはこんなに早くメイクが終わるの新記録達成かも。
髪もスタイリングして武装を完了させると、
鞄をもって部屋を飛び出す。