【B】(第一夜完結)Love around ※第二夜準備中
「おいっ、どうした?」
いきなりの低音ボイス。
もしかして……機嫌悪い?
いやっ、私……だったら……。
逃げ出しそうになる自分を必死に奮い立たせるように、
握りこぶしを膝の上で作る。
「あっ、あのバ、バック出来なくて。
ギアチャンジ出来ないんです……」
「エンジン切ってボンネット開けれるか?」
指示されるままに、ボンネットを開けると早城先生は、
車に強いのかボンネットの中を覗き込んでるみたいだった。
「ホーン使ったか?」
そう問われた意味が理解できない。
ホーンって何?
キョトンとした私に、痺れを切らしたように
クラクションと彼は言いなおした。
「クラクションなら鳴らしました」
そう答えたのと同時に、先ほどの事故寸前の実体験が蘇ってくる。
震えだしそうになる体を反射的に両腕で抱きしめるように抑える。
「少し待ってろ」
彼はそれだけ言うと何も言わずに歩いて離れていった。
車は止められない。
時間だけは過ぎていく。
気になるのは時計だけ。
次から次へと後から出勤した人が建物の中へと吸い込まれていく。
……なんで、こうなっちゃうんだろう……。
出てくるのは泣き言とため息ばかり。
僅か10分くらいがとっても長い時間に思えた。
「悪い」
そうやって姿を見せた早城先生の姿に正直ほっとしてる自分が居る。
そのまま彼は何かを作業する。
2・3分の作業の後早城先生は作業を終えて合図をくれた。
合図を受けて定位置に車をバックさせると軽くお辞儀だけして、
院内の建物へと鞄をひっつかんで駆け込んだ。
なんでスムーズな1日の始まりにならないのよ。
駆け込んだ更衣室。
マッハで制服に着替えてステーションに滑り込む。
そこで睨みをきかす水谷さん。
「すいません。
事故渋滞と車トラブルのダブルパンチで遅くなりました」
頭を低くして謝罪しながら輪の端っこの方へと立つ。
「ねぇ、早城先生と何話してたの?
私、ここから窓越しに見てたんだから」
申し送りの最中、早城先生ファンクラブの会員らしい一人が
ひそひそと耳打ちしてくる。
はぁ~やっぱり見られてたか。
この先、どうなるんだろう。
勤務初日、遅刻すれすれ。
2日目、約五分の遅刻。
地味子で目立たずに行こうと昨日誓ったばかりなのに、
すでに最悪な形で変化を遂げようとしていた。