【B】(第一夜完結)Love around ※第二夜準備中
「飛翔は明日、日勤だよね。
行っておいでよ。
神威君の食事は妃彩さんに頼んでおけば大丈夫だから」
「……だが……」
「大丈夫。
私も明日は日勤ですから、神威君は帰り道にお迎えにあがりますよ。
だったら安心でしょう?
その後も責任持って家まで送り届けておきますから
安心してお出掛けください」
氷室先生、そこはフォローしなくていいんです。
私は一緒に出掛けたいんじゃなくて、
あくまで……社交辞令で。
断られる方がいいのに……。
「えっと……私は……」
思わぬ展開に、酸素が薄くなってもがく魚のように
ワタワタして焦ってしまう私。
だけど誘ったのは私。
今更、キャンセルなんて出来ない。
早城先生、お願いだから断って。
祈るように、縋るように先生を見つめる。
あんなに怖かった先生だけが、今は頼りなの。
すると先生の視線が改めて私を捕える。
「わかった。
明日、仕事が終わり次第でいいか?」
えっ……なんで?
予想外の言葉に、何が起きたのかすら理解できずに
反射的に返事だけ続ける。
「あっ、はい」
「なら終わり次第、詰め所に顔を出す。
それでどうだ?」
「はい。わかりました」
とりあえず……予想外すぎる展開に自分自身が一番ついていけずに、
ただ一礼をして逃げ去るように、殿村さんたちの居る方へと慌てて退散した。
合流して慌ててお弁当を食べようとするものの、
精神的に食べる気がしなくて、半分以上残してしまう。
「早城先生にお礼は伝えられた?」
その言葉に助けを求めるように仕事の後、
相談に乗って欲しいと告げた。
仕事の後、母に電話だけ入れて私は殿村さんと出掛ける。
電車通勤の殿村さんを愛車へと招き入れて、
そのまま殿村さんのお気に入りの小料理屋へと出掛けた。
車内に流れる音楽が、殿村さんが好きアーティストの曲も入っていたことで
仕事だけでなく、少しずつ距離が縮まって行くのを感じることが出来た時間。
小料理屋についてからは、誘導尋問に近い状態だったけど
今朝の出来事を全部、聞き出してくれた。
話し終わった後には、疲労感が強かったけどだけど少しスッキリした私も居る。
そして本題の昼休みの一件。
「もう、李玖はもう少し自分に自信を持ちなさい。
顔だちもいいし、メイクも可愛い。
なんて言うのか世の中、自分に似合わないメイクを似合うと思って
作ってる子たちもいるでしょ。
だけど私、あぁいうの苦手なのよね。
だけど貴方は違うわ。世の中の流行の中から、自分に似合うメイクと似合わないメイクを
ちゃんと見極めてる。
そう言う女子力って、私憧れるのよ。
同性の私が見ても可愛いって思えるのに、とうの本人は自分に自信がない。
どうしたものかしら?
早城先生はね、どの看護師が声をかけても皆、惨敗してるの。
なのに……今回は、お受けしたのね」
っと殿村さんは、しみじみと呟くように語尾を続けた。
「だけど私……断ってくれるのが前程だったから、焦ってしまって」
「でも言い出したのは李玖でしょ。
ほらっ、女は覚悟を決めなさい。
んで、行きたいお店は?」
「憧れのお店はあるんですよ。
今月のエトランゼの雑誌にのってた、イタリアンレストラン。
だけど一人じゃいけないし、友達同士も敷居が高そうって言うか……」
そう言うと殿村さんは、自分の鞄からエトランゼを取り出して
テーブルの上に広げる。
何でもってるんですか……っと心の中で突っ込みながら、
私は広げられた頁を見つめる。
「どっち?」
「右側のお店です」
するとそのまま、殿村さんは携帯を取り出してその店へと電話をはじめ、
二人で予約を終えてしまった。
「はいっ、予約完了。
まっ、明日は思いっきり可愛い恰好をしてデートに望みなさい」
デートって……。
ただのお礼なのに。
そのまま殿村さんと食事を楽しんで、自宅へと送り届けると私も家路についた。
眠れないまま一夜が過ぎて、翌朝……何時もと変わらないように
着替えを済ませる。
だけど何時もはパンツルックが多い私も、今日だけは珍しくスカートをはいてみる。
夜のイタリアンレストランを意識して。
無事に日勤の仕事が終わって更衣室で、
ナース服から着替えを済ませてメイク直しをする。
「お疲れ様、李玖。
今日は早城先生とデート頑張って」
そう言って私を送りだしてくれる
そうは言われても……気が乗らないものは気が乗らない。