【B】(第一夜完結)Love around ※第二夜準備中


待ち合わせ場所の詰め所。

本当なら帰ってる私が、今日はスカートなんて履いて
まだ帰らずに立ち尽くしてる。

同僚たちの気にかける視線。


すでに待ち合わせから30分。
壁に持たれて俯いたまま、鞄から取り出した携帯電話を見つめる。



すでに待ち合わせ時間から30分は過ぎてる。
イタリアンレストランの予約は、遅い時間しかとれなくてまだ余裕はあるけど
だけどどうして私は、この場所でずっと待ち続けてるんだろう。


昨日の愛車の故障から始まった今日の食事会。


相手は、あの早城先生。


鷹宮に来てまだ数日しかたってないけど、
ナース同士の会話の中から、いろんな情報は耳に届いてくる。

仕事に関してはかなり自分にも他人にも厳しい
プロとしての気持ちが高い人。


ナースの間でも人気は高いけど近寄り難くて、
遠くから見ているのが暗黙の了解になってる存在。


私なんて勤務で被ることもないし会話をしたことなんて殆どない。


そんな先生と過ごす今からの時間。
緊張しかないよ……。

ホント、断ってくれればよかったのに。



そりゃー、車が突然言うこと聞かなくなって、
困ってた時に颯爽と現れてくれた先生は本当に救世主だったけど、
現実はお伽噺の中の『白馬の王子様』みたいにはならない。

白馬が似合うどころか仏頂面だし。



「塔矢さん、お仕事お疲れ様。
 今からお出掛けなのかしら?

 少し緊張してる顔をしてるわね。 
気をつけて行ってらっしゃい。
 楽しんでくるのよ」


いきなり水谷総師長に声をかけられて、
慌てて挨拶を交わす。


びっくりしたぁ~。


でも水谷総師長、最後に『楽しんでくるのよ』って笑ってた。
どうして……?
殿村さんにしか相談してないのに、総師長はこの後、私が誰と逢うのか
知ってるような気がして。


そんな風に思いながら、再び携帯画面の時計に視線を向けた時、
上から声が降り注ぐ。


「遅くなって悪い」


囁くような声で私に告げると先生は先を歩き始めた。

スーツを軽く着崩した先生。
背後からは同僚たちの突き刺さるような視線を背に受ける。





あぁ、明日絶対誤解されるよっ!!
どうしよう……地味子でいたいと願い続けたのに……。






そんな不安を抱えながら先生の後を追いかけるように駐車場へと向かう。


前を歩く先生、その後ろをとぼとぼ歩く私。
うーん……何してるんだろう私。



「おいっ、何処に行く?」

「あっ、えっと私のお気に入りのお店に予約してきました。
 先生、イタリア料理って大丈夫ですか?
 もしかして、お口にあいませんでしたか?」

「いやっ」


いやっ?


この言葉の意味ってどうなんだろう。


もしかして私、外した?


……どうしよう……。



「あっ、えっと、その……別のお店のほうが良かったですか?」

「別にいい」

「あっ、はい」



あーっ、どうしよう。
何かすでに会話が続かないよー。


駐車場を歩いているうちに私の駐車場に到着。

車を覚えていたのか、その前で立ち止まると
先生は私の方に振り向く。


「変わったことはないか?」


かっ、変わったこと?
えっ?何?もしかして……車のこと?



「くっ、車のことですか?」

「それ以外に何がある?」


それ以外に何があるって言われてもわかんないって。


「車は大丈夫です。
 昨日、先生になおして頂いてから調子いいです」

「そうか。それより車はどうする?」



えっ?
どうするって……何が……。



「それってどう言う意味ですか?」

「伝わらないならいい。
 車をまわしてくる」

「はい」


ぎこちない会話のままに自分の愛車に乗り込んでほっと一息。
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