【B】(第一夜完結)Love around ※第二夜準備中
「えっと、あの……氷室先生が仰っていた神威君ってどなたなんですか?」
「兄の子供だ」
先生はそれだけ告げるとまた黙ってしまう。
完全に玉砕って言うか、さっきから先生『あぁ』『そうか』しか答えてないし、
私……嫌われてるの?
一番長く答えて『兄の子供だ』だけなんてどうしたらいいの?
もしかして私、もう話さないほうがいい?
私が話せば話すほど雰囲気が行き詰って張り詰めていってる気がする。
その後の食事は……散々。
黙々と食べるだけ食べて最後の珈琲を流し込む。
食べるって感じよりも食べ物を機械的に
胃の中に処理をするって感じではっきり言って舌で味覚を楽しむ余裕もない。
せっかくの憧れのイタ飯屋さんだったのに、
凄く人気あるけど……女の子一人じゃなかなか入れない人気のお店の味だったのに。
お互いの珈琲がなくなった頃、先生はゆっくりと立ち上がる。
私も慌てて立ち上がると、
クロークの方へ先生の後からついていく。
この行動だけは理解した。
先生は次の行動に移る時も何も話してくれない。
あぁ……そう言えば、
外科のナースが言ってたっけ?
『早城先生に気に入られようと思ったら
先生の行動の先をよまないと相手にされない』って……。
今更思い出しても駄目じゃん、私。
……あぁ……もう手遅れ。
完全にアウト。
ゲームオーバー。
まぁ元々、私は先生に嫌われてるのかも知れないけど
……会話も進まなかったし……私と先生の関係もデートって言うには
ほど遠い。
だけど……地味子でいたいって思いながらも、
複雑な女心は、何処かでもう一度恋をしてみたいって言う希望もあって。
あんなことがあったけど……、ちゃんと新しく一歩踏み出したいって
言うのもあってここから(はじまる……)なんて一途の望みや夢がなかったっていったら
嘘なわけで。
肩をおとしたままクロークに着くと
私は預けていた鞄を受け取って会計へと向かう。
すると先に先生が店員に自分のカードを手渡している。
「先生、今日のお食事は私が……」
そう言いかけたのと、店員が先生に署名を促したのと
ほぼ同時くらいのタイミングで先生はサラサラっと署名すると店を後にする。
慌てて追いかける私。
何で?何でこうなるの?
今日は私がお礼に誘ったのに、
誘った私が奢られて立場ないじゃん。
「あの……先生、お食事代……」
「あぁ、いい。気にするな」
気にするなって気にするわよ。
「えっと……でも……」
「じゃあ、俺はここで」
二つの駐車場の分岐点。
そこで先生はそう告げると、
自分はさっさとスロープをのぼっていく。
そんな先生の後姿を暫く眺めながら解放感から一気に脱力する。
あぁ、食べた気がしない。
早く帰って殿村さんか風深捕まえて、
電話で愚痴りながら飲むぞー。
何か……すっきりしないよっ。
自分の愛車に乗り込んで自宅へとハンドルを向ける。
史上最悪のディナーが終わった。
あぁ、もう最悪・最低。
あんなに息苦しい時間とは思わなかった。
何か今度、病院で顔を合わせるのも嫌かも
それに……どうしよう……。
今日、先生と一緒に出掛けてるところ目撃されてるし、
明日絶対に噂になってる。
あぁ~こんな時間のために私、何て危険おかしちゃったんだろう。
アクセルを踏み込む足に力が入る。
愛車はグングンと加速して自宅へと向かう。
私の心、そのままに……。