【B】(第一夜完結)Love around ※第二夜準備中

6.休日 -飛翔-

塔矢との食事会が終わった後、そのまま電話を一本入れて由貴の家へと向かう。


昨日の話だと由貴が神威をマンションに送ると言うことだったが、
週末であり俺も仕事がオンコールのない完全なオフの日と言うことで、
神威を拾って総本家まで顔を出すことが決まってた。

通いなれた時雨と由貴が住む家、金城家。
そこに今、由貴と奥さんとなった妃彩さんが一緒に生活している。

現在、アイツは隣の敷地に金城家から少し土地を譲って貰って
マイホームを建設中だった。


途中、クレメンテでケーキを手土産に購入して目的地までの道程を走った。



見慣れたレンガ造りの家の前、俺はハザードをたいて車を停めると
空いている駐車場へと車をとめる。


車の音で気がついたのか、すぐに玄関の灯りがついて時雨が顔を出した。



「お疲れさん。
 飛翔、病院のナースと食事会だったんだって?」

「まぁな」

「どうだった?」



どうだったと問われても、コメントなど出来るはずもない。
無言と言う表現でスルーを決め込む。


「悪かったな。
 神威が世話になって」

「別に僕は構わないよ。
 由貴も妃彩ちゃんも楽しんでる。

 さっ、飛翔もどうぞ。入って」


そう言いながら玄関の扉を開ける時雨。
扉から一歩入った途端に、部屋の中から妃彩ちゃんの笑い声が聞こえる。



「飛翔、到着したぞ」


そう言って時雨はリビングへと入っていく。

俺も靴を揃えて脱いで玄関の端に寄せると、
そのまま時雨の後を追うようにリビングへと向かった。


リビングの奥のダイニングには、
妃彩ちゃんの手料理を食べ終えた後の食器が
まだ汚れたまま残っていた。


由貴に言われるままに、神威は食器を手に持って流しへと運んでいく。



俺も手伝おうとシャツの袖をまくって、汚れた食器を手にすると

「由貴さん、神威君、早城先生も大丈夫ですよ。
 もう後は一人で片付けられますから。

 由貴さんは皆さんに食後のお茶の準備をしてくださいね」


そう言って俺たちの行動をやんわりと断る。



「妃彩ちゃん、後頼むな。
 飛翔、神威君、お前たちはこっち。

 由貴、俺と飛翔はブラック。
 神威君はどうする?」

「えっ、ブラック」


呟いたように言う神威。
このガキ、小学四年でブラックか。


神威はブラックを所望した後、
鞄の中から取り出したノーパソの画面を食い入るように見つめる。


画面に映し出されているのは、一族の企業の株式情勢。
俺も神威の真後ろに立って同じ画面を眺める。



「飛翔、邪魔」


機嫌悪そうに吐き捨てると、
アイツはノーパソの画面を閉じて電源を落とした。



神威を兄貴の忘れ形見として面倒見るようになって、
ようやく三年が経つ。


当初は殆どコミュニケーションをとることが皆無だったコイツとの関係を
ここまで取り持ってくれたのは、由貴の影響が多いのは確かだった。

俺の言葉が足りない分は、由貴が砕きすぎるほどに噛み砕いて
説明をし、俺が見抜くことが出来ないアイツの心の変化や体調の変化を
傍に寄り添うことで俺以上に見抜いてくれた。


だからこそ、マンションや総本家ではなかなか笑顔を見せることのない神威も、
この場所だけは本来の言葉ものように笑みを見せる。


俺が必要以上に近づいた時以外は……。
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