【B】(第一夜完結)Love around ※第二夜準備中


「はいっ、お待たせ。
 時雨、リクエストのブラックを。

 神威君は、今日は少しミルクと砂糖を入れておきましょうか。
 ミルクで胃の粘膜を保護しないと、もっと胃が荒れてしまいますよ。

 飛翔はお疲れでしょうからね。
 問答無用でミルクと砂糖を。

 妃彩さんのハーブティーも一緒に置いておきますよ」



それぞれに用意された飲み物。

自分の珈琲がブラックじゃなくなった時には、不機嫌な顔をした神威も
俺の珈琲までブラックじゃなくなったがわかると、嬉しそうにクスクスと笑って俺をみる。



「ふふふっ。神威君、安心してくださいよ。
 飛翔を特別扱いになんて、私は一切しませんからね」


そう言いながら由貴は神威の向かい側のソファーへとゆっくりと腰かける。


神威は自分の珈琲に砂糖とミルクを入れてスプーンで混ぜると、
今度は俺の珈琲にも同じように砂糖とミルクを入れて楽しそうに混ぜ始める。


「おっ、優しいね。
 神威君」


そう言って楽しそうに俺を見て笑う時雨。


「はいっ、飛翔。珈琲」


神威によってブラックコーヒーは、早々に目の前で甘ったるいミルクと砂糖入に変化を遂げ
いやいやカップに手を伸ばしながら、今だブラックを飲み続ける時雨に訴えるように視線を向ける。

だが時、すでに遅し。
時雨のカップの中身は空っぽになったのだと、アイツは空のカップを見せる。



覚悟を決めて、俺はカップに手を伸ばすと一口、また一口と珈琲を口に含む。



せっかくの珈琲が甘ったるい。
これじゃ、珈琲を純粋に楽しめないだろ。



そう思いながら、嫌々珈琲を飲む俺を見ながら
由貴と時雨は面白そうに笑ってた。



そしてその笑いの中には、やがて洗い物の終わった妃彩ちゃんまで会話に入る。



三対一。
完全にふり以外のなにものでもない。



「だけど早城先生、神威君と一緒に生活するようになって
 話しやすくなりましたよね。

 昔は由貴さんたちのお友達だって知ってても、
 やっぱり少し話しづらくて怖かったもの」
 

そんな昔話を始めだすと、決まって隣の神威が嬉しそうに体を乗り出してくる。
そして由貴達が好き放題、出逢ってからの俺たちの昔話をはじめる。


成績がどうだったの、授業態度がどうだったの
学校帰りに何しただの、よくもまぁ、そんなに覚えているなと感心するほどに。


だけど……アイツらがもたらす、そんな空気で
ふとした時に見たことのない神威の表情を感じる。



「神威、そろそろ出るぞ。
 由貴、時雨、妃彩ちゃん、ご馳走さま。

 あっ、これ」


そう言ってまだ渡せずにいた手土産を妃彩ちゃんに渡すと
彼女は嬉しそうに微笑み返した。


「ご馳走さまでした。

 由貴先生、時雨さん、妃彩さん有難うございました。
 お世話になりました」


神威はそう言って丁寧にお辞儀をして、
ソファーから立ち上がると、由貴達も見送る準備にそれぞれが立ち上がる。



「飛翔、安全運転で。
 神威君、また何時でもいらしてくださいね」


そう言って由貴は誰よりも先に、アイツに声をかける。



「神威、またな」

「時雨さん、また体術教えてください」

「あぁ、気をつけて帰れよ」

「由貴先生の奥さんも有難うございました。
 オレんち、和食が多いから晩御飯珍しいもの食べれました」


そう言って神威はお辞儀をすると俺の車の助手席へと乗り込んだ。


窓を開けてエンジンをかけると、手だけで軽く挨拶をして
車を総本家へと走らせる。

もう俺の車にも慣れたのか、勝手知ったる車内。
アイツは遠慮もなしに、俺が楽しんでいた洋楽のフォルダーから
別の曲を選んで音楽を楽しみ始める。


会話は相変わらず続かないが、
車は音楽を車内に響かせながら高速道路を駆け抜けて、
総本家へと辿り着いた。

総本家に戻ると、華月や万葉が順番に顔を出す。
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