【B】(第一夜完結)Love around ※第二夜準備中
「いらっしゃいませ」
コンビニの店員の声が店内に響く。
時雨が来るとすぐに見つけやすい、入口横の雑誌コーナーの前にたって
適当に最近の地域のグルメ事情を記してある本を手に取って、
意味もなくペラペラと頁をめくる。
すると近づいてくる足音に耳を済ませる。
「こんばんは。
あれっ、早城先生奇遇ですね」
奇遇?
何処かだ?
今日も何時もと同じパターンだろ。
毎日毎日、俺の前に車で現れては付きまとう。
こうしてスーパーやコンビニに立ち寄っては、
『奇遇ですね』っと微笑みながら俺の前に姿を見せる。
うんざりなんだよ。
苛々する心を抑えながら、手にしていた雑誌を本棚に戻して
時雨の到着を待ちかねるように、視線を硝子の方へと向ける。
「今日、先生はお時間あるんですか?」
そう言って親しそうに話かけてくる女。
「いやっ」
「えぇー、そうなんですか?
せっかくお会いできたのに……先生いつも忙しいんですね。
李玖……李玖とだったらいんですか?」
どうして、ここに塔矢の名前が出る。
無視をしたまま雑誌コーナーを離れて、
ドリンクコーナーで珈琲を手に取るとそのままレジへと向かう。
財布から小銭を支払って、缶コーヒーを受け取るとちょうど入口のドアが開いて
時雨ともう一人が姿を見せる。
「飛翔、どれくらい待った?」
「構わん」
「ご無沙汰しています。早城さん」
そう言って俺に話かけてきたのは、時雨の弟である氷雨を慕って
その後は時雨の事情を知った上で全てを受け止めて、今は時雨と親しくしている
氷見優【ひさみ ゆう】。
金髪でホストみたいに見える容姿を持っているが、
実際は極道の幹部に名を連ねる存在。
「氷見、急に悪かったな。
時雨と出掛けるんじゃなかったか?」
「別にいいですよ。
それより早城さん。さっきからあの女、気味悪いっすね」
そう言いながら、ずっと付きまとっているアイツを視線でとらえている。
女はと言えば、お菓子を手に取ったり戻したりを繰り返しながら
俺たちの方をチラチラと覗いていた。
「おっ、悪い。氷見、何飲む?」
わざと声をあげて、レジの反対側にあるドリンクコーナーに動きだすと、
やはりあの女は俺の後をつけるように買い物を装って近づいてきた。
完全に厄日だ。
何故俺が巻き込まねばならん。
同じ珈琲を手に取ると、そのままレジで会計を済ませて
時雨たちと早々に店を後にする。
氷見が運転してきたらしい白のブラパスのベンツがとまる方へと、
愛車を動かしていく。
ベンツのとなりに車を停めると、そのまま手にしていた缶珈琲を
二人に進めてキャップを開けると、ブラックコーヒーを口に含んだ。
慌てて買い物を終えて店を出てきたアイツは、さっきまでとまっていたところに車がないことに気がついて
キョロキョロと視線を彷徨わせる。
「飛翔……厄介事ってこれ?」
そう言って呆れるように俺を見る時雨に不機嫌そうに頷いた。