【B】(第一夜完結)Love around ※第二夜準備中
「まっ、とりあえず話聞こうか。
けど、コンビニの駐車場でずっとってわけにはいかないよね。
あちらさんも、動く気配ないし」
「だったら、うちのマンションはどうですか?
屋敷が良かったら、そっちでもいいですけど」
氷見が言葉を続ける。
「屋敷って……そりゃ、お前んちのバカでかい日本家屋だったら
何処でも話せる部屋はあるだろうよ。
だけどあの子には刺激的すぎるわな」
時雨の言葉に頷いて、俺は氷見のマンションへ邪魔させて貰うことにした。
「じゃ、俺が先に走りますんで後来てください」
氷見がベンツに乗り込むと、俺も同じように車に乗り込んでエンジンをかける。
助手席に時雨をのせて車を再び走らせ始める。
「あぁあ、もっとうまいやり方幾らでもあるだろうに。
あの子、あからさまだね」
バックミラーから、再び付きまとい始めた女の車を見て時雨が溜息をつく。
「悪かったな。
由貴にも相談しないといけないのはわかってるんだがな、
その前に安全だけは確保しておきたいだろ。
妃彩ちゃんを危険に巻き込めないからさ」
「そうだな。
それにお前んとこの、神威もな」
そう会話している俺たちの車の後には、やはりあの女の車。
覚えやすそうなナンバーしてるな。
ミラー越しにナンバーを覚えたらしい時雨は、
ポケットからとりだした手帳にサラサラと書きとめる。
そしてそのまま時雨の知り合いらしい存在へと電話をして、
ナンバーを照会かけているようだった。
そんなアイツの隣、運転中の俺の携帯が着信を告げる。
着信相手は由貴。
「もしもし」
「飛翔、今どちらですか?」
「梅が丘を少し過ぎた」
「そうですか。
時雨のところですか?」
そう言った電話の向こうのアイツの言葉に、
言葉を失う。
アイツはそう言う奴だった……。
無言の時間を肯定と取った由貴はそのまま会話を続ける。
「最近、飛翔の周辺にパッソがいますよね」
その言葉に、今はついてきている車をバックミラー越しに見つめる。
「勇も気にしていました。
最初にそれを見かけたのは、勇なんですけどね。
でも……私も何度か目撃しましたよ。
で、飛翔に確認したいと思いまして。
あの車、何なんですか?」
あの車、何なんですかってお前……そんなの俺が聞きてぇって。
「後、もう一つ。
塔矢さん……彼女のことでも話があって」
また塔矢かよ。
由貴から紡がれた言葉に、溜息を吐き出す。
あの女に関わると、ろくな目にあってねぇぞ。
「わかった。
おっ、時雨にかわる」
そのまま時雨に電話を預けると、
俺は運転に集中しながら、氷見の車を追いかけた。
コンビニから20分くらい運転したところで、
マンションの中へと入っていく二台の車。
駐車場の入り口で、車をとめて降りると
一台ずつリフトで立体駐車場へと運ばれていく。
エントランス前には、例のパッソが道路近くに車を寄せて
ハザードをつけていた。
「俺、話つけてきましょうか?」
見かねた氷見が俺に言うも、俺は首を横に振った。
気になっているのは、増えていくリスカ痕。
あれさえ見ていなければ、時雨に相談しなくとも、俺一人で片付けることも出来た。
暫くすると、由貴の赤いミニが姿を見せて同じように立駐へと吸い込まれた。
「お待たせしました。
さて、飛翔……じっくりと話を聞かせて貰いましょうか?
時雨、優君いいですか?」
悪戯っ子のような笑みを含んだ由貴は、
真っ先にマンションの中へと入っていく。
俺たちがマンションに入る時も、パッソが動く気配はなかった。