【B】(第一夜完結)Love around ※第二夜準備中


マンションに入ると必要最低限のものしかない1DKの部屋に
男四人がテーブルを囲んでソファーへと座りこむ。



1DKでも間取りに圧迫感が感じられないのは、
メインの部屋がテーブルとソファーとテレビを置いても余裕がある広さだからだろう。





「さっ、飛翔話して貰いましょうか?」




由貴の一言に俺は1ヶ月前から出来事を遡って、3人に説明を始めた。





「ことのおこりは、一月前。
 うちのデパートで買い物中に、過呼吸で倒れた塔矢を見つけた。
 その塔矢の傍に居たのが、あの女・清水と堺総合病院のバカ息子」

「バカ息子って、確かに評判はいまいちですけど
 堺総合病院は確か、塔矢さんの前の職場ですね」



職場ですねって……由貴、お前それは何処からの情報だっと
毒づきながら、アイツの後ろに居るもう一人の情報源を思い出す。



「介抱した塔矢を裏に運んだ後、清水は俺に話かけてきた。
 清水は塔矢の親友と名乗って、当初、塔矢の彼氏だと俺を勘違いした。

 その後は、私のことを知って欲しいだ、塔矢の悪口を散々並べて
 捨て台詞と共に去っていった」





嵐のような時間。





そして清水の車が俺の周辺で見られるようになったのは、
その2日後くらいから。




それ以来、毎日見かけないことはない。



「なるほどね……」



由貴がしみじみと呟く。





「さっきの車、ナンバー照会したら清水って子の車ではなかったみたいだね。
 かといって盗難車ってわけでもなかった。
 持ち主には警察から事情確認に行って貰えるように頼んでおいた」


「サンキュー時雨。
 で、由貴にも聞きたいことがある」

「何でしょう?飛翔」

「その清水の件に手が出せない理由が一つ。
 その手首に見え隠れする、リストカットの痕。

 一ヵ月の間に増えているのが確認できる」

「リストカット。
 その彼女の手首に傷痕が見えるんですね。

 リスカに至る原因の殆どは一般的に、強いストレスだと言われています。
 そしてリスカと言う自傷行為の60%から80%がストレス解消の為と言われています。

 自分の体を傷つけても何一つ、解決することなどあり得ないのに愚かしいことです。

 だけどその愚かしさに気がついていても、行き場のないストレスを誰にも迷惑をかけずに発散させるには
 リスカと言う行為が一番、その時の当事者に取っては一種の自己治療の一旦を担ってしまう側面があるのも確かです」



由貴の言葉に、俺の中の不安が一つ広がっていく。



「その彼女が何時からリスカを始めたのかは何とも言えませんが、依存していなければいいのですが」

「依存か……その清水と塔矢の問題、由貴に面倒見て貰えるか?」

「私ですか?

 出来ることでしか力にはなれませんよ。
 経験値不足ですから。私の手におえなければ、指導医の力を借りることが許されるのでしたら」

「その辺は好きにしたらいい。
 俺より向いてるだろう」

「あぁ、それより飛翔。塔矢さんの情報で少し耳に入れたいことが」





そう言って由貴が話し始めたのは、
同じ院内に居ても俺自身が意識していないために気がつけなかったこと。





1.塔矢の集中力が途切れやすく仕事でケアレスミスが増えている。

2.何時もはギリギリの出勤だった塔矢が最近は時折遅刻してくる。

3.院内で欠伸をかみ殺していることが多く、指導役の殿村さんが心配して
 水谷さんに相談した。

4.何かに怯えるように終始、キョロキョロと視線を動かして挙動不審な状態が続いている。



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