【B】(第一夜完結)Love around ※第二夜準備中
朝の通勤ラッシュ。
今までの職場と違って渋滞が結構多い。
結構、余裕をもって出てきたはずなのに、
すでに車内の滞在時間は30分を過ぎようとしていた。
本当なら、そろそろ病院の門が見えてくるはずなのに。
まだ影も形もないじゃん。
えぇー、出社初日からこまのままで行くと私……遅刻?
そんなのあまりにも印象悪すぎでしょ。
ほらっ、前の車早く動きなさいよ。
朝食代わりのヨーグルトドリンクが入っていた
紙バックをムギュっは潰されて無残な姿。
イライラする時間だけが過ぎていく。
トロトロと動き続ける車がようやく流れ始めたときには
すでに8時をまわろうとしていた。
ここから後、10分くらいだっけ?
良かった何とかなりそう。
再び持ち直して、スピードを加速させていく。
私、塔矢李玖(とうや りく)。
今日から看護師として出社するのは、
鷹宮総合病院って言うところ。
この三月までは看護学校を出た後、
そのままお世話になった病院でお礼奉公って言うのをしてたんだけど
そこから抜け出して心機一転。
看護学校仲間の中には、
そのままその病院で頑張る子たちも居たんだけど
私はパス。
あの場所で働き続けるって言う選択は
私の精神的にあり得ないと思ったから。
仕事にプライベートを持ち込むななんて
そういう言葉、よく耳にするけど割り切るなんて出来なかった。
境記念病院。
そこが私が看護師1年目にお世話になっていた病院。
私が卒業した看護学校と提携している個人の総合病院で、
そこの看護学校出身者は暗黙の了解でその場所へと就職が決まる。
最低1年間はそこで安い給料で働く。
研修・実習させて頂いて有難うございました。
その感謝をこめて。
私が境記念病院に就職した翌年にはさっき朝から電話があった、
風深も入ってくるのはわかりきってたから
最初は私も居残る予定だったんだ。
けど……それは出来なくなった。
境での『新入り歓迎会』。
歓迎会で優しくしてくれた若先生、堺恭典【さかい やすのり】。
その人は私にとって初恋相手。
競争率は高いけど、今まで恋と言う恋に疎かった私が
初めて心に名前をとめた人だった。
どうしていいかわからなくて、
看護学校時代からの親友であった清水香穂【しみず かほ】に
その思いを告げた。
ただ……静かに思ってるだけでもよかったのに、
私の心を砕いた事件があったのはその年の忘年会。
1次会・2次会と外で続けて、
その後の3次会は……同僚のドクターの家へ。
3次会も騒いでその日は寝落ちする。
私が寝落ちをしていた後も、他の人は盛り上がっていたみたいで
暗闇の中、目が覚めた時には床で転がっていた私。
掛け布団がかけられたまま、
フローリングの床の上でダイレクトに眠ってた私。
起きた私が最初に耳にしたのは喘ぎ声。
ベッドの上、香穂と……若先生が抱き合う光景だった。
そんな職場で働き続けるのは精神的に辛すぎるから。
人間不信に陥った私はお礼奉公の期間が過ぎると
そのまま、境記念病院を辞めて鷹宮総合病院へと転職を決めた。
そうこう言ってる間に車は鷹宮の駐車場へ滑り込む。
まぁ、暗黙の了解でドクターからドアに近い方向だから、
このあたりまで距離あけたらいいかなーっと
関係者駐車場の端っこの方へと車を止めた。