【B】(第一夜完結)Love around ※第二夜準備中
「あっ、早城先生。
何か御用ですか?」
塔矢と殿村を見ていた俺に気がついて声をかけてくる看護師。
「あぁ、503号室の岡野さんの情報を確認したくてな」
「岡野みつこさんですね。
今、朝のラウンドを終えてカルテに追加しようとしていました。
えっと、こちらに」
呼ばれるままにパソコンの前に向かうと、
そこには患者さんのデーターが映し出されていた。
そして今から入力しようとしていた内容が、
ボールペンで自分の掌や腕に記入されていた。
「あっ、すいません。
掌だけじゃ、メモリきれなくて。
しかも読めませんよね」
そう言うと担当看護師は、ミミズの様に書き綴っていた内容を俺に伝えてくれる。
患者さんとの細やかな会話の中で気がついたこと。
食欲・不快感・痛み・心配事、感じていることなど、
看護師たちのコミュニケーションの中で得られた情報が、
その掌と腕には、細かくメモられていた。
「えっと、岡野さんのことで気がついたのは以上になります。
この後、完結にまとめてカルテにも入力しておきます」
「あぁ。
痛みが酷くなるようなら追加で……」
っと対応できる薬を告げて、ステーションを後にした。
俺がステーションを出る頃には、すでに塔矢も殿村も何処かに移動した後だった。
そのまま外来を終えて、午前の勤務を終えると昼休み、
俺はある場所を目指していた。
やはり塔矢のことが気になる。
気になってはいても、直接、関わるのは躊躇われる俺は
院内のことを良く知っているものから情報を引き出したいと思った。
この鷹宮の母とも呼ばれる、病院長の片腕の一人。
総師長、水谷結夏【みずたに ゆか】。
足早に廊下を移動して、総師室の前で軽く深呼吸をしてドアをノックした。
「はいっ」
「総師長、早城です。
宜しいでしょうか?」
「えぇ、どうぞ。
早城先生」
奥から声が聞こえたのを確認して、
俺はドアをスライドさせる。
その声に誘われてドアをスライドした途端、
先客がいることに気がつく。
「おぉ、早城かっ。
どうした?お前が珍しいな。こんなところで」
「あっ、すいません。
嵩継さんが居たなら俺は出直します」
「あぁ、早城いいぞ。
俺も仕事に戻らないとだからな。
ほらっ、結婚式近いだろ。
んで、おふくろに相談できそうなことをちょっとな。
んじゃ、ごちそうさん。
特製スタミナ牛丼、美味かったよ」
そう言うとテーブルの上のコップに入ったお茶を飲み干して、
嵩継さんは部屋を出て行った。
「あらっ、早城先生ごめんなさいね。
どうぞ、ソファーにお座りになって」
そう言いながら、さっき嵩継さんが食べ終わったであろう
お弁当を片付けて、珈琲を淹れて俺の向かい側に腰掛ける。
「どうぞ、早城先生はブラックだったわね」
「はい」
総師長の向かい側に座ると、病院長といる時のような妙な緊張感が
俺を包み込む。