【B】(第一夜完結)Love around ※第二夜準備中
「嵩継君はね、私の息子みたいなもんなのよ」
緊張を解そうとしているのか、何なのか、水谷さんは自分と嵩継さんのことをゆっくりと話してくれる。
水谷さんには、無事に生まれてくることが出来なかった
赤ちゃんが存在した。
その赤ちゃんは、水谷さんが発症した子宮がんが原因で子宮の全摘と共に姿を消した。
赤ちゃんが姿を消したその日、水谷さんは毎年、一人でお墓参りに向かっていた。
それを見つけたのが、嵩継さんと勇。
そして病院長にその理由を聞いて、その時から嵩継さんは、水谷さんを母親の様に慕うようになったのだと聞かせてくれた。
俺の両親が他界したように嵩継さんの母親ももう居ない。
それ故に、お互いがお互いの隙間を埋めるように寄り添いあって今の形に至っているのだと聞かせてくれた。
「だからね、本当は嵩継君の結婚式も、私なんかが嵩継君の親族の席にお母さまの代わりなんて務めてはいけないと思うのに、
どうしても私にって。
私じゃなくても、雄矢病院長に頼むことも出来るのに」
そう言いながら嵩継さんのことを話す、水谷さんの表情もとても柔らかくて
彼女のこんな表情を見ることなんて、働いているだけでは殆どない。
嵩継さんだからこそ、引き出せる彼女の笑顔なのかもしれない。
そんな風に感じた。
「俺も総師長が嵩継さんの母親代わりでいいと思いますよ。
二人とも、親子みたいに見えますから。
総師長、さっきから嵩継さんの話題を話されてる時、凄く幸せそうな柔らかい表情されてますから」
「まぁっ。
有難う、早城先生。
少し緊張は解れたかしら?
早城先生がいらしたのは、看護師の塔矢李玖さんの件と言うことで宜しいかしら?」
確信をつくように、一刀された鋭い言葉。
「はいっ。
塔矢のことも、総師長ならご存知だと思いまして」
「えぇ。
彼女の身に起きていることを、私は知っています。
ですが、それは彼女のプライベート。
闇雲に話せるものではありませんよ。
早城先生が、塔矢さんの情報をどうして知りたいと望むのか、
納得できる理由を教えて頂けますか?」
さっきまでの柔らかな空気が一瞬にして消え去り、
部屋中に緊迫感が走る。
俺はその情報を得る為に、自らの今までの出来事を完結に伝える。
デパートで塔矢のトラブルを目撃したこと。
その時、過呼吸をおこして倒れた塔矢を処置したこと。
その翌日から、塔矢の傍に居た女からストーカーまがいの出来事をされ続けていたこと。
「彼女が倒れたのは過換気。
ですが過換気はパニック症候群からもなりやすい発作の一つ」
「そうですね。
早城先生にもそのようなことがその身に起きていたんですね。
だからと言って、塔矢さんの情報を得る資格を得たことにはなりませんよ。
医療従事者としての介入であれば、私は彼女の情報を伝えることはありません」
医療従事者としての介入。
強く心に刺さるその言葉は、俺が必死に自分の心に言い訳をするための核にしていた理由。
神威がまだ幼い今、俺は俺自身の恋だの愛だのやってる場合じゃない。
だけど……。