【B】(第一夜完結)Love around ※第二夜準備中
「医療従事者として動こうと必死に一線を引こうと努力しました。
ですが、それだけでは抑えきれない感情があるみたいです。
どうか、塔矢のことを聞かせてください。
俺で力になれるなら、一族の力を使ってでもアイツの為に何かをしたいと思っています」
気がついてたら、そう零してしまっていた。
俺自身が驚きを隠せない。
「まぁ。
早城先生が、塔矢さんのことをそんな風に思っていたなんてびっくりだわ。
彼女の母親も看護師だったの。
私がまだ鷹宮ではなく、大学病院に居た頃の後輩だったわ。
そんな李玖ちゃんの母親から、私の時に連絡があったのが今年の1月頃かしら。
娘を助けて欲しいって。
李玖ちゃんが前に勤めていた病院はご存知かしら?」
「堺記念病院ときいています」
「えぇ。
その病院で彼女は、一人の男性を好きになって恋に落ちたそうよ。
そして……心に深い傷を負った。
その辺りの理由は、ちゃんと貴方が李玖ちゃんから聞き出しなさい。
二人が前に進むには大切な話よ。
だけど李玖ちゃんの傷は、それだけでは終わらなかったのよ。
その恋が原因で、少し鬱状態になってしまった李玖ちゃんを貶めるように
彼女のことを良く思わなかった看護師が、ドクターの指示とは別のことを夜勤を務めていた李玖ちゃんに伝えたのよ。
李玖ちゃんも、その場でその処方の異常に気がつくべきだったのだけど、
見逃してしまった。 それ故に患者さんの体には大きな負担がかかって状態が急変した。
幸いなことに患者さんはすてぐに処置が出来て助かったものの、医療事故を指摘されて、彼女は堺記念病院を追われることになった。
全ての責任を、その身に受ける形で。パニック発作が強く出るようになったのは、その頃からだったわね。
でも最近は、発作が起きることなんて少なくなって来ていたって、そう聞いていたんだけど……」
彼女が巻き込まれた医療事故。
その医療事故にも、あの女が関わっていたのだとしたら……。
「あの日、塔矢を見かけたデパートに居たのは堺記念病院の医師と看護師でした。
あの場で、二人と再会したことにより何かのスイッチが入ってしまったのかもしれません」
「そうだったのね。
デパートで倒れたのは知っていたのだけど、そんなことがあったのね」
「最近、塔矢の顔色が悪いように思うのですが、その点は何かご存知ですか?」
「早城先生はご存知ないのね。
最近、彼女は眠れていないみたいね。
昔、お世話になっていた心療内科の先生に、安定剤と睡眠導入剤を処方して貰って
何とかやり過ごそうとしているみたいだけど。
李玖ちゃんの車が、病院の駐車場で傷つけられて今は修理中。
それだけでも大変なのに、インターネットって言うのかしら?
そこに、誰かが李玖ちゃんの連絡先の情報を開示してしまったみたいで、
うちの看護師たちの間でも噂になってたの。
芙美【ふみ】の話だと、自宅にも注文したはずのない通販の荷物が沢山届くようになってたみたいよ」
芙美と話すその名は、話の流れからして彼女の母親の名前。
塔矢の身に起きた内容をまとめると、車の故障・注文していない通販の荷物が届く・ネットへの個人情報の開示。
明らかにされた内容は、俺の想像を超えたもので、
それだけのストレスがかかっていたとなると、身心的に限界が近づくの時間の問題だと思えた。
「警察や弁護士には?」
「弁護士には相談はしてないみたいね。
だけど警察には李玖ちゃんを連れて相談しに行ったって言ってたわ。
だけど民事には警察は介入できないと言われたそうだわ。
通販の件に関しては警察からの紹介で、消費者センターを紹介されたみたいよ。
そちらの件は一応、話し合いで解決したみたい」
「有難うございます。
うちの顧問弁護士にも対応させます。
民事介入に渋った警察も、すぐに動かしますよ。
話してくださって有難うございます」
その場でお辞儀をして総師長の部屋を出る。
午後からの仕事をいつも通りに終えた頃、時雨からの着信が入る。
「もしもし」
「飛翔、彼女が警察に助けを求めに来た。
生活安全課に相談履歴を確認した」
「知ってる。
ただ民事に警察は介入できないと、書面に残すだけ残して何もしなかったらしいな」
「そうだね。
悪質なネット上での個人情報の開示は、いろいろなものに利用されやすい。
彼女の自宅に僕の知る人間を向かわせてる。
それより飛翔の方は?最近は、あのストーカーはどうだい?」
「今はないよ。
うちの弁護士からの内容証明通告が聞いたんだろう」
「ならいい。
彼女のことは、僕も出来る範囲で動いてみるよ」
「あぁ。頼む」
その数日後、塔矢は勤務ほ終えて病院の前で最後に目撃されたまま姿を消した。