【B】(第一夜完結)Love around ※第二夜準備中
「李玖、綺麗な赤い血が出てるよ」
ただ淡々と告げるように話し続ける香穂の声に、
体は恐怖しか感じない。
手足が冷たくなるような感覚と、息がしづらくなっていく感覚が、
嫌な汗と共に私自身を包み込んでいく。
嫌っ、助けて。
助けて欲しいって思いながら、思い浮かべた貌は……
自分でも信じられないその人だった。
早城先生……。
出逢いはあんなにも最悪だったのに、
気がついたら、こんなにも私の中で大きくなってる。
「何、李玖、今、誰かを思い浮かべたでしょ」
そう言うと、胸倉を掴んで持ち上げられて私はコンクリートに叩きつけられた。
「アンタたち、お金を払った分だけきっちりとやってちょうだい。
貴方はここで、好きでもない奴に何度も抱かれ続けるの。
アンタが男をくわえてよがる写真を、私が貴方の好きな人に送りつけてあげる」
そう言うと香穂らしき足音は遠のいていった。
この場所が何処なのかわからない。
そして多分、私が軽はずみな行動をしたために……
こんな風にまた、香穂に貶められてしまった。
だけど……もう私は穢れてしまってるから。
去年の12月に。
これ以上、傷つけられるものなんてない。
たとえ、本当に殺されたとしても私はちゃんと行動を起こさなきゃいけない。
逃げ出さなきゃ。
そして誰かに助けを求めなきゃ。
一緒に足音が遠ざかったのを合図に、後ろにくくられた両手を必死に動かして縄を外そうと頑張る。
少し縄が緩んで、片方の手首が抜け出たのをいいことに、そのままアイマスクをとり、起き上がって足元のロープを解く。
足元に転がっていたのは、多分私の頬に触れていた香穂が持ってたナイフ。
そのナイフを引き寄せると、必死に縄と足の間に差し込んで、内側からローブを少しずつ切って行く。
ようやくロープから解放されて、立ち上がった時遠さがっていた足音が戻ってきた。
思わず息を殺して、物陰に隠れる。
「おいっ、アレ」
「あのアマ。
お楽しみはこれからだってのにな。
この部屋からは出てないだろう。
お前はあっちからいけよ」
そんな声が部屋に響く。
逃げようとして体を起こしたとき、私はまた木材を落として大きな音を上げてしまう。
出口に向かって、一気に走りだしたとき、
背後から掴まれて、そのままもう一人に正面から腹部を蹴られるのを感じた。
その痛みにうずくまる様に床へと吸い込まれていった。