【B】(第一夜完結)Love around ※第二夜準備中


「すまない」


慌てて私と距離をとる早城先生。
それだけで少し寂しさを感じる私。


思い通りにならない私の心。



「えっと……私……」



確か、あの日香穂からメールが来て、仕事の後に待ち合わせをした。
その場所に香穂は姿を見せたけど、その後から記憶があまり鮮明でなくて……
次に気がついたのは、真っ暗な冷たい倉庫みたいな場所だった。


そこで感じた……ナイフの切っ先のような感触。



記憶を掘り起こそうとすればするほど、さっきまでの恐怖が込み上げてきて
私はベッドの中で無意識で両手で自分の肩を抱きしめるようにして体を丸める。

体を丸めた途端に、息苦しさが襲ってくる。




「塔矢さん、安心して。
 今居る場所を認識してくださいね。

 大丈夫ですよ。この場所は怖いところではありませんから。
 私の自宅なんです。

 だから安心してください」


呼吸が乱れて、息が吸えなくなってる私を落ち着かせながら
必死にゆっくりと呼吸をしやすいように声をかけながら誘導してくれる。


何とか大きく息を吸って落ち着けた時、
私は何度かの深呼吸を繰り返して平静を取り戻す。


その後はベッドの上で、ゆっくりと体を起こそうと動き出すと
そっと体を支えるように氷室先生が両手を添えてくれて、
私は何とかベッドで座ることが出来た。



「この場所は?」


ようやく落ち着いて開いた一声。



「君を助けて由貴の自宅に連れてきた」


由貴……さっきも、女の人が紡いだ名前。
あれは氷室先生の名前だったのだと、会話から察する。


そう言えば、発作で苦しんでる私だったけど
由貴先生は、私の自宅って言ってたような気もする。



「えぇ。先ほどもお話ししましたが、ここは私たちの家。
ゆっくりと今は体を休めてください。少し熱も出てたみたいですから。
 今は熱は下がったみたいですけどね。

 落ち着いたら、貴方の身に何が起こっていたのか私に話を聞かせてください。
 心の傷を残したまま、何時までも闇の中を彷徨い続けては前に歩き出すことなど出来ませんから」


そう言って由貴先生は、意味ありげに早城先生に視線を移す。
早城先生は、何か思い当たることがあるのか少し遠い目をしてるような気がする。


「えっと……私、家に連絡……」


ベッドの上から慌てて立ち上がろうとするものの、
体はバランスを崩して、再びベッドに倒れ込む。



「動くなっ!!」


早城先生が鋭く一喝する声が聞こえて、
その後再び手が添えられて、私が再びベッドの上ですわれるように手伝ってくれる。



「御自宅への連絡も病院への連絡もぬかりありませんよ。
 塔矢さんが我が家にいらしていることも、伝えてあります。

 総師長からは明日は、落ち着くまで休ませてあげて欲しいと伝言を預かりました」


氷室先生はそう言って、気になってたことを説明してくれた。



「あらあらっ、由貴さん、早城さん、そろそろこれくらいで。
 朝までもう少し休ませてあげてくださいね。

 それに今、時雨さんを仲間はずれにしてはいけませんわ。

 自己紹介が遅くなりました氷室の妻で妃彩【ひめあ】と申します。
 そしてこちらにいるのが、由貴さんと早城さんの親友、金城時雨【かねしろ しぐれ】さん。

 今回の塔矢さんの一件でも、警察の立場でいろいろと力になってくれたのですよ」


そう言って氷室先生の奥さまが、紹介してくれたもう一人の男性。
< 61 / 90 >

この作品をシェア

pagetop