【B】(第一夜完結)Love around ※第二夜準備中


「少し診察させてくださいね」


そう言って由貴先生の手が私の方へと延びてくると、
昨日、早城先生にされたみたいな距離感になっているのに
昨日はあんなにドキドキした鼓動が今は大人しい。


昨日のが嘘みたい。



「昨日より随分と落ち着いたみたいですね。
 鷹宮にも連絡しておきますね。

 今、飛翔は塔矢さんのお母さまを鷹宮までお迎えにいってますよ。
 水谷さんからの連絡で」



総師長からの連絡で早城先生が?



「李玖さん、朝ご飯食べられそうですか?
 起き上がれそうなら、ダイニングでご一緒しませんか?」


そう言って妃彩さんが私に声をかけた。


「お洋服のサイズは多分大丈夫だと思うんです。
 好みは違うかもしれませんが使ってくださいね」


妃彩さんはそう言って、私の座るベッドに丁寧に置いた洋服に視線を向ける。



「由貴さん、お着替えの邪魔になりますから一緒にダイニングに参りましょう」


妃彩さんは氷室先生を連れて部屋を出て行った。
外から扉が丁寧に閉ざされると、私は丁寧に畳んでおかれた洋服へと視線を向ける。



胸元に可愛らしいレースがあしらわれたトップス。
そしてあわせる下はスカートが二着。

桃色の布地に真っ白いレースがあしらわれたトップスにあわせるように、
真っ白なティアードスカートと呼ばれる三段切り替え付きのスカートが一着、
もう一つのフレアスカートは、チュールが重ねられたクリーム色の品。


いつもはボーイッシュに、パンツスタイルが多い私にはどちらも甘すぎるテイスト。
だけど今、着替える服は妃彩さんが用意してくれた二着しか存在しない。


覚悟を決めるように手を伸ばして、ベッドの上で身に着けるものの
大きなガラス付きの本棚に映る私自身を見つめる。


やっぱり……っと諦めたように溜息を吐き出す。
甘すぎるテイストに、冴えない顔色をした私には似合うはずもなかった。



「李玖さん、お着替え終わりましたか?」

「あっ、はいっ。
 お待たせしました」


今は多分、服が似合う似合わないの問題じゃなくて
初対面の私に、此処まで親切に手を差し伸べてくれた妃彩さんに感謝したい。

ただ、それだけでいいんだと心に言い聞かせてドアを開く。




「どうぞ、ダイニングにご案内します」



そう言って私を案内すると先にテーブルについている、氷室先生が驚いたような表情をする。



「……やっぱり似合いませんよね。
 私なんかに……」



自分で言葉にしながら、内心自分自身が傷ついているのがわかる。


お伽噺のお姫様は、いつも可愛い服を着て白馬の王子様が訪れるのを待ってた。
だけど私には、そんな可愛い服は似合わない。



「塔矢さん、ご自身の価値を自ら貶めるような言葉は口にしてはいけませんよ。
 私自身も驚いてしまって、私の態度が傷つけてしまったのかもしれませんね。
 すいませんでした。

 病院で出逢う貴方とは違った表情を見ることが出来て、あまりの違いにびっくりしてしまいました。
 病院ではどうして、いつもボーイッシュなスタイルを好まれているのですか?」



そんなことを異性から聞かれたのも初めてで全ては私自身に自信がないことが原因で……。



戸惑ってる私の前に、台所から次々と朝ご飯を運んできた妃彩さんの存在が、
緩衝材のようなクッションを醸し出して、少し安堵してる私が居た。


とりあえず私が想像していた意味合いの驚きではないのだと言い聞かせて、
そのまま氷室先生ご夫婦と一緒に朝食を共にした。


その後は、リビングのソファーに座ってボーっと過ごす。
時折、妃彩さんが気遣うように会話をしてくるものの、それに幾つかことばを返すとまた沈黙の時間が流れ続けた。



お昼前、来客をつげるチャイムが鳴りびいて妃彩さんと氷室先生が玄関へと来客の対応に向かう。



リビングの扉がカチャリと開くと、お母さんが駆け寄って私をギュっと抱きしめた。
その包み込まれた温もりに、緊張の糸が解けてしまったのか涙が溢れてしまう。

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