【B】(第一夜完結)Love around ※第二夜準備中


「李玖頑張ったわね。
 怖かったわね。でももう大丈夫よ。
 犯人は早城先生のお友達が逮捕してくださったみたいね。

 お母さん、早城先生と一緒に警察でお話伺って来たわ」


お母さんの言葉に私は、必死に涙を堪えながら自分を落ち着かせようとした。
言わなきゃいけないのは……香穂のこと。


「……香穂に会おうって言われたの……。

 電話番号もメールも変更したのに、ウェブメールは変更してなくて……
 香穂が謝りたいって」



そんな報告へと切り出しと共に、私の身に起こったことをゆっくりと言葉にし始めた。


我が身に起こった体験を言葉として発していく作業は、
非現実だと思いこませて逃げようとしている自分自身の行為には相反する行いで、
一言、一言絞り出すように形にしていくことで、自分の中で恐怖感が現実のものになっていく。


何度も発作が起きそうになるのを感じながら、その度に外から流れてくる言葉に誘導されて
必死で落ち着かせると長い時間をかけて言葉を紡ぎ続けた。





「よく話してくれましたね。
 今日はもう、この辺りにしましょう。

 時雨もいいですね」



何時の間にか、その部屋に居た時雨さんの存在にようやく気がつく私。
早城先生は不機嫌そうに眉間に皺を寄せてただ両手を前で組んでいた。





「李玖さん、少しベッドの方に移動してお体を休ませないと」


気まずそうな沈黙を感じてか、妃彩さんが私に声をかけると
立ち上がる補助をするように肩に両手を添える。



「ほらっ、李玖立てる?」


お母さんにも助けて貰いながら、何とか立ち上がるとそのまま
ずっと使わせて貰っていたベッドへと戻った。


リビングからベッドに戻る僅かな道程も、今の私にはしんどかった。




夜までぐっすりと休ませて貰って私は氷室先生の家を後にした。




お母さんの車かタクシーで帰ると思っていた私は、
氷室先生の自宅にとめられた車は早城先生の愛車。




「早城さん、わざわざ帰りも送っていただけるみたいで有難うございます」

「いえっ。どうぞ」


そう言って早城先生の手に寄って開かれる後部座席。


「李玖、ほらっ」


お母さんに促されて車に乗り込むと、私の隣に母が乗り込んで
ドアは静かに閉じられた。

そうこうしている間に運転席に体を滑り込ませた先生は、
静かに車を走らせた。


先生の運転で辿り付いた場所は見知らぬマンション。



そのマンションの駐車場に車を停める。



お母さんは後部座席のドアを開けると、
「降りるわよ。李玖」っと私を促す。


私が下車する間際「明朝7時に来る」っと早城先生は告げた。


「早城さん、何から何まで有難うございます。
 水谷先輩にも宜しくお伝えください」


そう言ってお母さんは車のドアを閉じると先生の車は再び動き始めた。
 

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