【B】(第一夜完結)Love around ※第二夜準備中
「まぁ、愛らしい。アンジュちゃんね」
総師長はその場で座り込んで、掌を差し出すと猫は少しずつ近づいてきて
クンクンと匂いを嗅ぐ。
そしてインプットが終了したのか、部屋の中へと再び戻って行った。
「アンジュ、ハウスなさい。
お出掛けするわよ」
母親の声でアンジュは所定のゲージへと自分から入ると満足そうにご褒美のおやつを貰っているみたいだった。
当面の着替えなどをスーツケースに詰め込んで、
冷蔵庫の中身もちゃっかりと確認して持ち出す準備をする。
布団やら必要な引っ越しの荷物を男手で運び出すと、
今度は鷹宮院長が手配したマンションの一室へと運び入れる。
鷹宮院長と関係深い、伊舎堂グループの持ち物であるマンションも
俺の一族が管理しているマンションと同じく、徹底したセキュリティーで住人の安全を管理されていた。
勿論、住人以外の人物が奥まで入れるはずもない。
塔矢の母親は手続きを済ませると、総師長に案内されて部屋へと通された。
その後も荷ほどきを軽く手伝って、俺と勇と嵩継さんの三人は伊舎堂のマンションを後にして帰った。
朝まで仕事を終えて翌日の昼前に総師長に頼まれて、塔矢の母親を由貴の自宅へと案内し
夕刻、二人を再び乗せて伊舎堂のマンションへと送った。
二人を送り届けた後、車内から電話をかけて呼び出すのは万葉と時雨。
塔矢の自宅に緊急に防犯カメラを取り付けて、
四六時中、状況を把握させる。
そして時雨からは、逮捕された犯人とその背後に居る人物像。
俺が案じていた通り今回の一件にも、あの清水香穂が関与していた。
清水と言えば、警察に連れて行かれて取り調べと並行しながら
専門機関で精神的なフォローを得るべく、治療が始まったらしい。
っと言っても、長い道程には違いないし
アイツが精神疾患を保持していたからと言って、今回の塔矢に対する一件が
許されるはずのないものには違いない。
責任能力なしとして解放されるのではなく、しかるべき処置をとって
罪を償ってほしいと望む俺自身。
日付が変わる頃になって、ようやく自宅マンションに帰宅した俺は
そのままベッドに倒れ込んで、泥沼のような眠りについた。
翌朝、早朝から起床してシャワーを浴びて体を覚醒させると
階下の実家へと顔を出して母親の手料理を食べる。
「飛翔、最近は貴方はいろんな表情を見せてくれるようになったわね。
何時か、その方を我が家にも連れて来るのよ。
はいっ、お口に合うかはわからないけど、余分に朝ご飯作っておいたわよ」
っと養母は俺の前に手作りのサンドウィッチが四切れほど入った折をそっと置く。
朝食をぺろりと平らげて、ブラックコーヒーを飲み干すと、
折の入った紙袋を玄関へと移動させて、洗面所へと向かう。
そこで洗顔やら歯磨きを終えて身支度を整えると、
荷物を手に地下駐車場へと向かった。
今日から塔矢は事件後、初めての出勤が決まっている。
っと言っても、本格的な仕事と言うよりは病院でしっかりと検査をする方がいいと言う
母親の希望だった。
荷物を後部座席において、通勤用の愛車のエンジンをかけると
相棒の前を通過して車を走らせた。