【B】(第一夜完結)Love around ※第二夜準備中
だけど塔矢は、その場所に姿がなかった。
病棟じゃないとなると、透析室の方か?
そう思い、体を反転させたとこステーションの奥からミーティングを終えて出てきた看護師が俺の呼び止めた。
「早城先生、何かごようですか?」
「塔矢さん、そう言えば今日は来てないわね」
そう言いながら看護師たちは、それぞれに会話をしていた。
塔矢は今日は休みなのか?
「あの、早城先生……塔矢さんは付き合ってるんですか?」
「あぁ、それ私も気になってたんです。
この間まで、塔矢さんの送迎してましたよね」
「やってた。やってた。
早城先生って、塔矢さんがタイプだったの?」
睡眠不足で疲労が蓄積された俺の聴覚には、
看護師たちのキンキン声が耳障りに感じた。
「はいっ。
加納さん、井口さん、持ち場に戻る。
加納さんは、601号室の三谷さんを検査に連れて行く。
井口さんは点滴交換があるでしょ」
パンパンと両手を打ち鳴らしてざわついていたスタッフたちを抑え込むと、
すぐに指示を出したその人が、俺の前へと近づいてきた。
「早城先生、お疲れ様です」
「お疲れ様です。
総師長、助かりました」
「こちらこそ、スタッフの教育が至らなくて申し訳ありません。
それでご用件は?」
「塔矢の様子を」
そう言うと、水谷さんは小さく溜め息を吐き出した。
「早城先生、私の部屋へ」
そう言ってステーションを出て総師長室に案内されながら、
不安だけが心に広がっていく。
総師長室のテーブルにつくと、
総師長は一通の白い封筒を俺の前に差し出した。
その真っ白い封筒には、退職願っと綴られていた。
退職願と退職届。
同じものとして最近の会社では捉えられることもあるが、
正式には意味合いは大きく変わってくる。
退職願いは、相手側が承諾して初めて成立する。
よって相手側が受け入れなければその間は撤回することも出来る。
だけど退職届は、相手が受け入れた時点で
有効となり、その後は何があっても撤回することは出来ない。
今回、塔矢が出したものは退職願。