【B】(第一夜完結)Love around ※第二夜準備中



「総師長、受理は?」

「今は預かっているだけです。
 彼女は今、ちゃんと自分の足で独立したい希望しています。

 いろいろと我が身に起こったことで、
 彼女の中の何かが、その思いを奮い立たせたのかもしれませんね。

 今は彼女の意志を尊重して預かりました。
 ですが、今は休職期間と言う形を独断でとっています。

 あれだけのことがあった後です。
 心を休ませる時間も必要でしょう。

 李玖ちゃんは昔からとても強い子です。
 だけど凄く我慢強くて、脆い子でもあるんです。

 だから……早城先生、これからも力になってあげてください。
 あの子も、先生のことが気になってるみたいですから」



そう言って総師長は穏やかに笑った。



「それでは、失礼します」





そのままお辞儀をして総師長室を後にすると、
病院長が塔矢の為に用意した伊舎堂のマンションへと車を走らせる。




「鷹宮総合病院の早城です。
 塔矢李玖さんと連絡を取りたいのですが」


エントランスでコンシェルジュに声をかけると、予想外の言葉が帰ってきた。



「塔矢さまは、こちらには滞在されておりません。
 昨日、引っ越しなさいました」

「引っ越し?
 引っ越し先は聞いてないか?」

「存じ上げません」



そう言うと丁寧にお辞儀をして仕事へと向かっていく。



慌てて愛車に乗り込むと、そのまま彼女の実家へと戻るものの
チャイムを押しても、そこから誰かが出てくる気配がなかった。




一気に疲労が増したような錯覚に陥る体を引きずる様に
再び車を走らせて自宅マンションに戻ると自室のベッドに倒れこんだ。





昼を過ぎて帰宅して、四時間近く過ぎた17時前。
携帯のコールで目が覚める。




「もしもし、早城」

「おいっ、飛翔。
 今、何処にいる?」

「悪い、寝てた。
 一週間ぶりの自宅ベッドだ」

「そうかっ、寝てるところ悪かった。
 だが、よくない知らせだ。

 一応、お前の耳にも入れておきたくてな。
 清水香穂が療養していた施設から居なくなった。

 消えたんだよ」



何?
アイツが?



ODをしてうちの病院に搬送された後、
俺へのストーカー容疑と、塔矢の拉致監禁で警察に引き渡した後、
パーソナリティー障害の疑い有とされて、専門の施設で治療を受け乍ら観察処分中の身のはず。



一気に眠気がとんでベッドから起きあがると、
電話を続けながら、冷蔵庫からブラックコーヒを取り出してグラスに注ぎこんで飲み干す。







「んで飛翔、塔矢さんは今何処にいる?」



時雨の言葉に「今回も彼女が狙われているのか?」っと鋭く問い直す。



「それは僕たちにもわからない。
 とりあえず今は、塔矢さんの自宅周辺から範囲を広げて検問を続けている。

 だがまだわからない。
 後は、彼女の居場所も。

 飛翔、お前は知っているのか?」



時雨の声からも、向こうも焦っているのが伝わってくる。




「俺も知らない。

 病院側には彼女、退職願を出してた。
 無論、受理はまだしてないらしいがな」

「そうか。
 なら、僕も引き続き彼女の足取りを追いかけよう」

「俺もそっちに向かう」








二人の消えた女。
どいつもこいつも、余計なことばかりしやがって。

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