【B】(第一夜完結)Love around ※第二夜準備中
「はいっ」
コトリと置かれたマグカップを手に取ると、
私は警戒しつつも、口に含む。
これはインスタント。
何も細工なんて出来ないはず。
友達と思ってた子が出してくれた飲み物すら、
信じることが出来なくなってしまった私自身。
こんなはずじゃなかったのに。
ただ沈黙が流れて、カップの中身をお互い飲み干したとき
体育座りを椅子の上でしたまま香穂が、ゆっくりと呟き出した。
「ここさ、私の思い出の場所なんだ。
うちのお父さんの工場。
お父さんは会社の経営に失敗して、この場所で首をつってなくなっちゃった。
お父さんが居なくなった後も、他の人が会社は受け継いでくれたけど
新しい工場が完成するとともに、誰も近寄らなくなったの。
だけど私にとっては、大切な場所なんだ」
そう言って香穂は話しだした。
だけど今更って思うし……、
今の私は香穂に対して、冷めた感情しか持ち合わせてない。
「ねぇ香穂。
私、今日ははっきり言いたくて来たの。
香穂と私は、価値観も住む世界も違うみたい。
専門学校の時に香穂と出逢って、友達になれるって思ってた。
だけど香穂の友達の価値観と、私の友達の価値観は違ってた。
私は自分の為に、私自身の友達を利用したいとは思わないもの。
困らせたいとは思わないもの。
友達が恋愛をするって言うなら、私が気になってる人以外だったら
ちゃんと応援して相談に乗りたいと思うし、友達と同じ人を好きになったなら
真っ向からライバルとして接したい。
香穂みたいなやり方、友達じゃないよ。
堺先生のことに関しては、好きじゃないってわかった。
好きって感情がわからなくて、流されてそのままカップルになってたら今頃凄く後悔してたと思う。
今は本当に大好きって思えるとと出逢えたから。
そのことには感謝してる。
だけど……私も人間だから。
香穂が私に対してしたことも、私が大切な人に対してしたことも許せないの」
そう許せない。
人生なんて、そんなに甘くはないんだもの。
友達だって、ちゃんと選ぶ権利はあるはずだから。
ちゃんと伝える。
深呼吸をして、もう一度しっかりと目を見開いて香穂と向き直る。
「私たち、もう今日を最後に別々の道を歩きましょう。
お互い、一緒に居ても本当の友達にはなれそうにないから」
そうやって告げると、体育座りをしていた香穂は目を閉じた後、
ゆっくりと立ち上がった。
そして鞄の方へと近づいていく。
反射的に、何時でも逃げられるように後ずさりをする私。
次の瞬間、鞄の中から新聞にくるんだ包丁らしきものを蝋燭の炎が映し出す。
「香穂っ?
やめて……包丁を片付けて」
包丁を両手で握りしめて、私の方へと少しずつ近づいてくる香穂。