【B】(第一夜完結)Love around ※第二夜準備中


すぐにでもドアを開けて外に飛び出したいのに、
思うように体が動かない。




「李玖……私たちは友達でしょ?
 そうだと言って?」


そう言いながら香穂は、更に私の方へと近づいてくる。



「香穂、友達だったらちゃんとその包丁をおろして冷静に話し合いましょう?
 そんなことしたって、何も変わらないでしょ」




何とか動くようになった体を必死に奮い立たせながら、
両手を背後にしてドアノブを必死に回す。


カチャっと開いた途端、
私は勢いよくその部屋を飛び出した。



それと同時に周囲に聞こえてきたのは警察車両のサイレンの音。





ほっとした時、背後からうめき声が聞こえた。





足をとめて、後ろを振り返る。


「香穂?」



この場所に居るのは私と香穂だけ。
っと言うことはこの後ろに居るのは、香穂しかいない。


無視して逃げることも出来たはずなのに、
なぜかそんなことは出来なくて、私は慌ててさっきまでいた部屋に
蝋燭の灯りを取りに戻る。



手に掴んできた蝋燭の灯りで確認出来たのは、
香穂の腹部に突き刺さるさっきまで握りしめていた包丁。




「ちょっと、香穂っ、何してるの」



慌てて香穂の傷口からドクドクと流れ出る血液を
吸着させるようにTシャツの上に羽織っていたものを脱いで、
押さえつける。


香穂のうめき声は、今も続いていて……。



「こんなのじゃ足りない。
 香穂、腹部からの出血が酷すぎる。

 なんて馬鹿なことしたのよ。
 アンタも看護師でしょ」



感情に任せて怒鳴りつけると、
私はまた傍を離れて、蝋燭の灯りで応急処置に使えそうなものを探す。


ソファーにかけられていたカバーの近くに、古びたクリーニングの袋に入ったシーツらしきものが確認できる。

埃をはらってそれを掴み取ると、慌てて私は香穂の元へと戻る。
戻った時には、香穂はぐったりとして辛うじて意識が保てているみたいだった。


シーツを幾つかに切り裂いて、包丁を固定するようにシーツを巻き付けて
その周囲に幾重にも、シーツと先ほどの私の羽織をのせて圧迫するように押さえつける。




警察もさっきはサイレンが聞こえてたのにどうして来ないのよ。
それにっ、私……こんな時になんで携帯持ってこなかったのよ。



香穂を責める言葉よりも、自分を責めることしか思いつかない。




「香穂っっ。
 ったくアンタ、本当に何やってるのよ」



香穂の患部を止血するように抑えながら、
意識を落とさないように、怒鳴りつけるように声をかけつづけることしか出来ない私。


こんな時、私以外の経験豊富なあの水谷さんだったら、
もっとちゃんとした処置が出来るのかもしれない。


だけど……私には……。



「塔矢、大丈夫か……」



その時、背後からずっと聴きたかった声が聞こえる。


早城先生……嘘……どうして?


傷口を抑えながらも、不思議そうに視線を向けると「どうした?」っと
上から声が降り注ぐ。



先生も目の前で起きてる状況に、
驚いたように香穂の傍へと駆け寄ってくる。


ちゃんと伝えなきゃ。
今は私は看護師で……先生はお医者様。



「10分ほど前、香穂が手に持っていた包丁で香穂の腹部を刺しました。
 出血が止まらなくて。

 だけど私、携帯も持ってなくて……連絡できなくて」




先生は座り込んだ香穂の傍で、
すぐに現在のはバイタルの状況を確認しているみたいだった。



「すぐ傍に警察車両がある。
 一台、出して貰えるように交渉する」



そう言ってすぐに先生は、元居た方へと駆け戻って行く。



それだけでなんだか、心に寂しさが膨れ上がる。
再び先生が戻って来てくれるそのまでの時間が長すぎて。




「おいっ、傷口を動かさないように車へ乗せてくれ」


そう言うと連れてきた警察官たちは驚いたような表情を一瞬浮かべたものの、
すぐに早城先生の指示通りに、香穂をその場所から有り合わせで作った簡易担架に乗せて運び出していく。


「塔矢、助手席に乗り込め」

「すいません。お願いします」



指示されるままに助手席に乗り込んでシートベルトを締めると、
先生も後部座席の香穂の傍へと乗り込む。


「鷹宮総合病院へ」


先生が告げるとパトカーは、サイレンを鳴らしながら
病院の方へと勢いよく走りだす。



その途中、救急車と合流して私たちは救急車へと乗り換えた。




救急車の中では、鷹宮のERと連絡を取りながら
早城先生は次から次へと、香穂の処置を行っていく。

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