【B】(第一夜完結)Love around ※第二夜準備中
私もちゃんとやらなきゃ。
「先生、私にも指示ください」
救急隊の人から医療用の手袋を受け取って両手にはめると、
香穂の気道確保とラインを取る準備を手伝う。
パトカーの中よりはちゃんと状況が管理出来る救急車内。
モニターに映し出される生態情報に何度も視線を向けながら
少しでも早く鷹宮につくことを祈り続けた。
「後、一分で到着します」
前にいる救急隊員から声が聞こえてると、
救急車が鷹宮の敷地内に入っているのを感じた。
ようやくとまる救急車と同時に、後ろのハッチが開かれて
すでに待機していた救命救急の当番のスタッフが近づいてくる。
「早くオペ室まで運べ」
そのまま救急車から香穂を運びだしていくと、
早城先生もそれに続くように状況説明をしながら飛び出していった。
そんな香穂たちを見送って、救急車から立ち上がろうとするのに
腰が抜けたみたいに動けない私。
「李玖、ほらっ。
ゆっくりと足に力を込めて立ち上がってみなさい」
そう言って私が救急車から降りるのを支えてくれるのは殿村さん。
「ホント、アンタはあの子に振り回されてばかりみたいね」
半ば呆れたように呟かれた言葉。
だけど……その表情は、優しく包み込んでくれる温かいもので。
「すいません。
ご迷惑かけて」
「いいのよっ。
アンタをちゃんと一人前になる様に面倒見るのは私の役目なんだから」
そう言うと殿村先輩は私を支える様に、
病院の中へと連れてはいる。
ERの待機ソファーの一角に、
一緒に座り込んだ先輩は「お茶持ってくるわ」っと傍を離れた。
殿村さんが戻ってくる前、再び恐怖感が募りだした私は
ソファーの上に足をあげて体を小さくして両手で体を抱きしめる。
「おいっ、発作起きそうなのか?」
突然降り注いだ声に、驚いて顔をあげると心配そうに覗き込む早城先生の顔があった。
その途端、自分でもわからないのに涙が溢れだして止まらなくなる。
「えっ……なっ、何でだろう……私……」
どうしようも出来ない涙を必死にコントロールしようと耐えながら、
溢れ続ける涙に戸惑う私。
次の瞬間、私の体は先生の腕の中で抱きしめられていた。
「心配かけさせるな。
傍に居るって言っただろう」
そう小さく耳元で囁くように呟いた先生は、
そのまま私の口元にキスをした。
驚きと戸惑いと嬉しさが広がってまた涙が止まらなくなる。
「あらあらっ、早城先生。
場所はちゃんとわきまえて頂かないと」
そう言いながら、殿村さんは飲み物を私に手渡す。
「早城先生にはこちらを。
先生のブラックコーヒーです。
清水さんの件は、治療の後警察と連絡を取りながらしかるべき処置をとることになるかと思います。
警察の方が、李玖に詳しい話を聞きたいと言うことです。
早城先生に付き添いをお願いします。
それでいいわね。李玖」
殿村さんの言葉に、私は黙って頷いた。
その後、応接室で警察の調書を取られた後は水谷さんから思いがけない言葉をきかされた。
私が届け出た退職願は、まだ受理されていなくて撤回することが出来ること。
あなたはどうする?って。