【B】(第一夜完結)Love around ※第二夜準備中



その時初めて、退職願と退職届が微妙に意味合いが違うことを知った。


勿論、退職願は撤回。

私はそのまま鷹宮総合病院で働くことを決めて、
水谷さんはその場で退職願を破り捨ててくれた。





「塔矢さん、今は少しゆっくりと体を休めて週明けの月曜日から
 通常勤務に。

 では以上です。帰っていいですよ」



水谷さんはそう言うと、私と早城先生をじっと見つめた。




「あらっ、少しずつ近づいてきたのかしらね。
 貴方たちの距離は」



その言葉に先生と二人、お互いの顔を見合わせて苦笑いするしかなかった。




時雨さんが持って来てくれた先生の車に再び乗りこんで、
私たちは病院を後にした。





「もう少し時間はあるか?」




そう言った先生の言葉に小さく頷くと、
先生は車をデパートへと走らせる。



その場所は私が過呼吸で倒れた場所。





「お待ちしておりました。飛翔さま」

「彼女に似合う服を」



先生はそれだけ告げると、私は出迎えられたお店の関係者らしき人へと
奥の部屋へと通された。


そこには何種類もの洋服が、ぎっしりとラックにかけられていた。



「こちらなどはいかがでしょうか?
 塔矢さまにお似合いだと思いますが」



そう言ってスタッフが手に取った洋服は、
私が着てみたいと思いながら、似合わないと諦めていたワンピース。



胸元には可愛らしいアクセサリーをあしらわれて、
足元はちょっと高めのヒール。



そう言って映し出された鏡に映る私は、
別人にも思えて……なんだか、シンデレラが魔法をかけられた時の童話のシーンを思いだしてしまう。



「お待たせいたしました。
 塔矢さまのお支度が整いました」



そう言ってスタッフに連れられて私は出ると、
先生レジでブラックカードを手渡して、会計をしているみたいだった。


「先生……私……」


っと断ろうとするものの、先生は私の言葉を遮る様に「行くぞ」っと言葉を続ける。


ヒールを履くのは慣れてたつもりだけど、
普段履いてるものより高いヒールはちょっと歩きなれなくて、
いつものスピードで歩けない。


少しずつスピードが遅くなる私を気遣うように、
先生は私の元へと戻ってくる。


「お姫様抱っこで連れて行ってやろうか?」


そう言って耳元で呟かれた言葉に思考回路が停止する。



今、なんて言った?
先生……。



デパートのど真ん中でお姫様抱っこなんてとんでもない。


私は勢いよくスピードをあげて前進する。

そんな私の隣、ピタリと寄り添うように何時でも支えられる位置で
さり気なく気遣ってくれる。


次に先生の車で連れられたのは、
先生と一番最初に出掛けたイタ飯屋さん。

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