哀しみを越えて
4.始めての幸せと不安そして哀しみ。
私たちはそっと唇を重ね合わせた。
他に誰もいないこの部屋で。
胸はもう熱かった。
夏向は私の家まで車で送ってくれた。
車の中での会話はほぼなし。
私は話し出すことができなかった。
…昨日…。の…夜…。
明確に覚えているよ。
だって、夏向は避妊道具を使わなかったんだもの。
私たちは結婚まだしてないよ…。
朝から不安で襲われていた。
本当に夏向とつながれた瞬間。
嬉しかった。でも哀しかった。
妊娠なんてまだ考えれなかった。
私は家についてから、街のドラッグに向かった。
妊娠検査薬を求めに。
店に置いてあった在庫は残り一つだった。
すぐに手に取り、会計を済まし、店のトイレへと向かった。
一度はそこで検査してみようと思ったものの
不安だらけで何もできずにトイレをあとにした。
夏向は何か心配してくれているのかな?
…ただ身体を奪われただけじゃないか?
少しそんな疑いを思い始めた。
私は今は笑ってなんかいられない…。
不安で一杯…。
夏向にメールや電話をする暇もなかった。
家についてすぐには検査できなかった。
ソファーに座って、頭を抱えた。
……「妊娠していたらどうしよう」
そのことだけで頭が一杯になった。
周りのことなんか目に入らなかった。
結局、何もかも投げ出したくなって検査薬をゴミ箱へ捨てた。
買ってきただけ検査しなきゃ。っと焦るだけで、
いいことは何もなかった。投げてしまったし。
そして疲れた。睡魔がすごかった。
疲労も溜まったんだろう…。そう思った。
寝ても寝ても眠気と疲労が出ていかなかった。
「もしかして、妊娠超初期症状かな…?」
そう疑いが酷くて、夜も眠れなかった。
妊娠検査薬は不安で検査できなかった。
身体が怠い。私は一度、病院に行ってみようとした。
全ては病院の病室で私の人生が大きく左右する。
そんな時、夏向の顔が浮かんだ。
夏向は新しい命を求めていたのかな…?
夏向はこれが目的だったのかな…?
一度、話しておかなきゃ。と思い電話をした。
『夏向…。これを望んでたの?』
『え?何が何が。』
『避妊….。あの時してなかったでしょ?』
『あぁ。』
『うん』
『できてたの?』
『明日、病院行ってみる。』
『俺は仕事がないから付いてくよ』
『できてないかもしれないんだから。』
『うん』
『だから一人で行くよ』
『そうか…』
『うん』
翌朝の天気は曇り。
少し肌寒い風を感じながら歩いて病院に向かった。
深く深呼吸を何度もしていた。
「できているか」「できていないか」のどっちかの答えを、
一秒でも早く聞きたかった。
歳はもう大人だけど、
私たち付き合ってからまだ4ヵ月しか経ってないよ…。
段階が早いんじゃないかな…。
もう赤ちゃんができたように自分の中で考えてた。
…この先、どうすればいいの。
一人で焦った。こんなのはじめてだから。
病院の先生を目の前にすると
目を見て話を聞くことができなかった。
先生と私しかいない病室で静まった。
『おめでとうございます。』
先生がそう言った。
その瞬間、涙腺が震えた。
何が何だかわからなくなった。
もう私一人で生きているみたいに。
夏向の存在が一瞬、頭から消えた。
頭が真っ白になったから…。
吐息だけが今はこぼれる。
夏向に電話をしなきゃ。
これからは私はひとりじゃないって。
人生がまた新しいものに変わったんだって。
『夏向』
『どうだった?』
『できていたよ。』
『おお!よかったじゃん!』
『うん、大変だよ、でも』
『まーな』
『うん』
『どうかした?』
『いや、別に』
『そっか…』
『うん』
『お前、最近、冷たくなったよな。』
『お前…?なんなのよ、その言い方。』
『お前はお前。知亜のことだよ』
『私の苦しみに気づいてくれないのはそっちじゃない』
『は?何言ってんの。こっちも我慢の限界』
『どうして…自分勝手な行動ばっかりなの…』
『お前は俺についてくればいいんだよ』
『お前ってやめて』
『知亜は俺についてくればいいって言ってんの』
『そんなんじゃ私だってついてけない』
『そしたら勝手にすれ』
『お腹の子はどうするのさ…』
『…プーっ…プーっ…プーっ…』
私は怒りと悲しみで泣き崩れた。
もうどうしたらいいのかわからなくなった。
お腹にはもうひとつの命があるのに。
今まで、こんなにも簡単にすれ違った事はなかった。
私は冷たくしてた訳じゃなの…
夏向に気づいて欲しかったから…。
でも、ちっとも伝わらなかった。
「夏向にとって、私はなんなの」
「夏向にとって、お腹の中の子はなんなの」
本当はお腹に赤ちゃんができて、嬉しいはずなのに、
手一杯、喜べなかった。
夏向は私に目を向けなくなってるから…
私、一人でこの子を…。
頬に涙が走った。
帰り道は夕日が街をオレンジに染めている頃だった。
私は気分転換として海に夕日を見に行った。
夕日は止まることなく、少しずつ、少しずつ海へと沈んでいってた。
すべて沈んでから、ふっと蘇った。
「夏向の笑顔」
すごく愛しく感じた。
『自分勝手な行動ばっかり…』なんて口からこぼれてしまった。
だけど、私だって夏向を振り回してたんだ。
そう、何故か自分が納得するように自分で思った。
「ごめんね」そう言っても、今は振り向いてくれなだろう。
うまくいかない日々にため息だけが溜まっていった。
そしてまだ膨らんでいないお腹をさすりながら
お腹を見つめていた。
『聞こえてる…?』
お腹に話しかけた。
『貴方のパパはね、今いないの』
『でも、絶対に取り戻すからね』
『貴方はママとパパの子だからね』
『元気に生まれてきてね』
静まった部屋から、小さな泣き声が響いた。
何度、目が覚めて何度ねたって、
夏向からの連絡はなかった。
行く日も行く日も何も起こらず…。
ただ一つ、私の哀しみと重い荷物が大きくなっていくだけ。
帰ってきて欲しい…。
私、一人じゃ無理…。
夏向が私のすべて…。
早くに夏向の気持ちに気づいてあげればよかった…。
後悔ばかりが胸の中に残った。
今は、彼のことを想うと、悲しくなって虚しくなって、泣きたくなる。
『今だけ…今だけ』
そう言い聞かせる毎日。
結局は自分が悪いのかもしれない…
でも自分一人で解決できることでは決してなかった。
お腹にもひとつの命が存在するから。
思い切って、電話を鳴らしてみた。
『プーッ…プーッ…。』
電話に応答することはなかった。
それでも私は諦めない。
何度も何度も…夜になるとメールも送った。
それでも夏向はどこかへいっちゃったみたい…。
私は夏向の心から追い出されたのかも…。
私はそれでもしがみつきたかったよ…?
私たち、もう離ればなれなの…?
「別れよ」の一言も、ちっとも聞いてないよ…?
……今すぐ、声を聞きたい。戻って来て。
気づけばもう、絵を書く事など忘れ
机に向かってた日々も過去の思い出だけとなってしまってた。
そして、また一晩中、涙した。
夏向のことを想って。
想わないことは絶対にない。
他に誰もいないこの部屋で。
胸はもう熱かった。
夏向は私の家まで車で送ってくれた。
車の中での会話はほぼなし。
私は話し出すことができなかった。
…昨日…。の…夜…。
明確に覚えているよ。
だって、夏向は避妊道具を使わなかったんだもの。
私たちは結婚まだしてないよ…。
朝から不安で襲われていた。
本当に夏向とつながれた瞬間。
嬉しかった。でも哀しかった。
妊娠なんてまだ考えれなかった。
私は家についてから、街のドラッグに向かった。
妊娠検査薬を求めに。
店に置いてあった在庫は残り一つだった。
すぐに手に取り、会計を済まし、店のトイレへと向かった。
一度はそこで検査してみようと思ったものの
不安だらけで何もできずにトイレをあとにした。
夏向は何か心配してくれているのかな?
…ただ身体を奪われただけじゃないか?
少しそんな疑いを思い始めた。
私は今は笑ってなんかいられない…。
不安で一杯…。
夏向にメールや電話をする暇もなかった。
家についてすぐには検査できなかった。
ソファーに座って、頭を抱えた。
……「妊娠していたらどうしよう」
そのことだけで頭が一杯になった。
周りのことなんか目に入らなかった。
結局、何もかも投げ出したくなって検査薬をゴミ箱へ捨てた。
買ってきただけ検査しなきゃ。っと焦るだけで、
いいことは何もなかった。投げてしまったし。
そして疲れた。睡魔がすごかった。
疲労も溜まったんだろう…。そう思った。
寝ても寝ても眠気と疲労が出ていかなかった。
「もしかして、妊娠超初期症状かな…?」
そう疑いが酷くて、夜も眠れなかった。
妊娠検査薬は不安で検査できなかった。
身体が怠い。私は一度、病院に行ってみようとした。
全ては病院の病室で私の人生が大きく左右する。
そんな時、夏向の顔が浮かんだ。
夏向は新しい命を求めていたのかな…?
夏向はこれが目的だったのかな…?
一度、話しておかなきゃ。と思い電話をした。
『夏向…。これを望んでたの?』
『え?何が何が。』
『避妊….。あの時してなかったでしょ?』
『あぁ。』
『うん』
『できてたの?』
『明日、病院行ってみる。』
『俺は仕事がないから付いてくよ』
『できてないかもしれないんだから。』
『うん』
『だから一人で行くよ』
『そうか…』
『うん』
翌朝の天気は曇り。
少し肌寒い風を感じながら歩いて病院に向かった。
深く深呼吸を何度もしていた。
「できているか」「できていないか」のどっちかの答えを、
一秒でも早く聞きたかった。
歳はもう大人だけど、
私たち付き合ってからまだ4ヵ月しか経ってないよ…。
段階が早いんじゃないかな…。
もう赤ちゃんができたように自分の中で考えてた。
…この先、どうすればいいの。
一人で焦った。こんなのはじめてだから。
病院の先生を目の前にすると
目を見て話を聞くことができなかった。
先生と私しかいない病室で静まった。
『おめでとうございます。』
先生がそう言った。
その瞬間、涙腺が震えた。
何が何だかわからなくなった。
もう私一人で生きているみたいに。
夏向の存在が一瞬、頭から消えた。
頭が真っ白になったから…。
吐息だけが今はこぼれる。
夏向に電話をしなきゃ。
これからは私はひとりじゃないって。
人生がまた新しいものに変わったんだって。
『夏向』
『どうだった?』
『できていたよ。』
『おお!よかったじゃん!』
『うん、大変だよ、でも』
『まーな』
『うん』
『どうかした?』
『いや、別に』
『そっか…』
『うん』
『お前、最近、冷たくなったよな。』
『お前…?なんなのよ、その言い方。』
『お前はお前。知亜のことだよ』
『私の苦しみに気づいてくれないのはそっちじゃない』
『は?何言ってんの。こっちも我慢の限界』
『どうして…自分勝手な行動ばっかりなの…』
『お前は俺についてくればいいんだよ』
『お前ってやめて』
『知亜は俺についてくればいいって言ってんの』
『そんなんじゃ私だってついてけない』
『そしたら勝手にすれ』
『お腹の子はどうするのさ…』
『…プーっ…プーっ…プーっ…』
私は怒りと悲しみで泣き崩れた。
もうどうしたらいいのかわからなくなった。
お腹にはもうひとつの命があるのに。
今まで、こんなにも簡単にすれ違った事はなかった。
私は冷たくしてた訳じゃなの…
夏向に気づいて欲しかったから…。
でも、ちっとも伝わらなかった。
「夏向にとって、私はなんなの」
「夏向にとって、お腹の中の子はなんなの」
本当はお腹に赤ちゃんができて、嬉しいはずなのに、
手一杯、喜べなかった。
夏向は私に目を向けなくなってるから…
私、一人でこの子を…。
頬に涙が走った。
帰り道は夕日が街をオレンジに染めている頃だった。
私は気分転換として海に夕日を見に行った。
夕日は止まることなく、少しずつ、少しずつ海へと沈んでいってた。
すべて沈んでから、ふっと蘇った。
「夏向の笑顔」
すごく愛しく感じた。
『自分勝手な行動ばっかり…』なんて口からこぼれてしまった。
だけど、私だって夏向を振り回してたんだ。
そう、何故か自分が納得するように自分で思った。
「ごめんね」そう言っても、今は振り向いてくれなだろう。
うまくいかない日々にため息だけが溜まっていった。
そしてまだ膨らんでいないお腹をさすりながら
お腹を見つめていた。
『聞こえてる…?』
お腹に話しかけた。
『貴方のパパはね、今いないの』
『でも、絶対に取り戻すからね』
『貴方はママとパパの子だからね』
『元気に生まれてきてね』
静まった部屋から、小さな泣き声が響いた。
何度、目が覚めて何度ねたって、
夏向からの連絡はなかった。
行く日も行く日も何も起こらず…。
ただ一つ、私の哀しみと重い荷物が大きくなっていくだけ。
帰ってきて欲しい…。
私、一人じゃ無理…。
夏向が私のすべて…。
早くに夏向の気持ちに気づいてあげればよかった…。
後悔ばかりが胸の中に残った。
今は、彼のことを想うと、悲しくなって虚しくなって、泣きたくなる。
『今だけ…今だけ』
そう言い聞かせる毎日。
結局は自分が悪いのかもしれない…
でも自分一人で解決できることでは決してなかった。
お腹にもひとつの命が存在するから。
思い切って、電話を鳴らしてみた。
『プーッ…プーッ…。』
電話に応答することはなかった。
それでも私は諦めない。
何度も何度も…夜になるとメールも送った。
それでも夏向はどこかへいっちゃったみたい…。
私は夏向の心から追い出されたのかも…。
私はそれでもしがみつきたかったよ…?
私たち、もう離ればなれなの…?
「別れよ」の一言も、ちっとも聞いてないよ…?
……今すぐ、声を聞きたい。戻って来て。
気づけばもう、絵を書く事など忘れ
机に向かってた日々も過去の思い出だけとなってしまってた。
そして、また一晩中、涙した。
夏向のことを想って。
想わないことは絶対にない。