恋するplants
「・・・昨日、夜、離れに行ってたね」
味噌汁に舌鼓をうっていると、祖母が訊ねてきた。
・・・知ってたんだ。
「友達に誘われて、また書道を始めることにしたんだ。っていっても、パフォーマンス書道っていって、大きな紙に大きな筆でかくちょっと変わった書道なんだけど・・・」
祖母はにっこりと微笑んだ。
「爺ちゃんが喜ぶわね。芹が習字に興味を持ったとき、すごく楽しそうだったもの。・・・芹のお父さんは小さい頃から習字が嫌いだったからね、退屈だなんて言って」
初めて芹が自分の名前を上手に書けた時、私に自慢してたのよと祖母は懐かしそうに目を細めた。
「・・・実は、心配してたんだよ。あんなに毎日、机に向かって書を描いていた芹が、爺ちゃんが亡くなったらぴたりと描くことを辞めてしまったから・・・婆ちゃんも芹の書のファンだったんだから」
味噌汁のお椀を置いてテーブルに手をついた。
「・・・爺ちゃんが病気になって・・・どんどん痩せていって・・・俺の好きだった大きな手も笑顔も・・・何か別人のようで・・・」
怖かったんだ。
死に近づいていく爺ちゃんを見てるのが、だから入院してる爺ちゃんに会いに行かず、書に向かってた。
俺が上手くかけたらまた誉めてくれる、元気になってまたあの笑顔を見せてくれるって、でも、現実は違った。
爺ちゃんは亡くなった。
「あれから、何回か描こうと思ったんだけど・・・爺ちゃんの痩せ細った顔がちらついて・・・怖くて・・・」