恋するplants


 私は勢いよくホームに飛び出すと、キャップをかぶった男を追いかけた。


 走るのは早い方だと思っていたけれど、さすがに大人の男の足には追いつけなかった。


 なりふり構わず、自分の学生カバンを男に向かって投げた。


 コントロールが下手な私の投げたカバンは男ではなく、男の横は歩いていた少年に当たってしまった。

 
 「いてぇ!何だよ?」と後ろを振り返った少年に「ごめんなさい!わざとじゃないの!」と平謝りする。


 こっちは緊急事態なんだから、ひったくり犯が改札口を出てしまう・・・。


 改札口の近くに立つ駅員さんの姿を見つけた私は、


 「駅員さん!その赤いキャップの人、ドロボウです!!・・・捕まえて!!」


 大声で叫んだ。


 周りにいた人もぎょっとなり、男は焦ったのか無理矢理、改札口を突っ切ろうとした。


 駅員さんと周りにいた男の人が男を抑えつけ、駅員室に連れて行った。



 「本当にありがとうございました。」


 バックを手にしたお婆さんが深々と頭を下げた。


 いいえ、とんでもないですとバックが無事でよかったですとお婆さんに微笑んだ。


 「君の勇気ある行動に感謝するよ。素晴らしかった。」


 駅員さんに誉められ、くすぐったいような気分で駅員室を後にした。


 何だか、いいことした後って気持ちいいな。


 晴れ晴れとした気分で、改札口の前に立つ。


 ・・・あれ?私、カバン、どこにやったっけ?気付いたら手ぶらだった。


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