恋するplants


 「とりあえず、顔を洗いましょう。せっかくのかわいい顔が台無しだわ」


 マルタが私の肩の手を置き、人込みを掻き分けて水道のある体育館のトイレへと進む。


 人だかりの中に小山紫苑を見つけた。


 ・・・見られてしまった。


 彼の中のかわいい春風ナズナの虚像も壊れてしまっただろう。


 目が合った。


 彼は呆然としたまま、何も言葉を発することはなかった。


 私はそのまますれ違い、黙ったままトイレへ向かった。




 
  ★




 週明け、私と楠を待っていたペナルティは1週間の女子トイレ掃除だった。


 派手に喧嘩をしたのが担任の耳に入ってしまった。


 今日から1週間、1時間早い電車に乗って、朝からトイレ掃除をする羽目になった。


 梅雨入りしたせいか朝からどんよりと灰色の雲が空を覆っている。


 駅から学校までの一本道をとぼとぼと歩く。


 天気同様、私の気分もすっきりしない。


 楠とも冷戦状態が続いているし、本性がバレてからクラスメイトの態度が妙によそよそしくなった。

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