恋するplants


 隣の小石川がマルタに訊ねる。


 そうね、とマルタは短く答える。


 「春風さん、あなたも素直になりなさい」


 私は顔をしかめた。


 一生懸命に汗を流して小山紫苑の姿に目が釘付けになってる。


 「嬉しいくせに、思い切り泣いてるじゃないの」


 マルタが小石川にガーゼのハンカチを渡した。


 小石川はそれを私に手渡すとぽんと頭を叩いた。




  ★




 夕日が差し込む体育館に細く伸びた影を見つけた。


 すっかり人気のなくなった体育館。


 数時間前にここが人が溢れて、ライブがあったなんて思えないほど静寂に満ちている。


 体育館の真ん中に小山紫苑が立っていた。


 ライブの熱気を思い出しているのか顔を上げ、瞳を閉じている。


 「小山紫苑」


 すらっと伸びた背中に声を掛けると驚いたようにこちらを振り向いた。


 秘密を覗かれたように恥ずかしそうな表情をした。

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