恋するplants
桂さんは下に置いたバックパックをポンと叩いて、私を見た。
「実は帰国する前から、オーストラリアのワーキングホリデーのビザの申請をしてたんだ。取得出来たし、カナダを旅行してた時に知り合ったオージーがケアンズの近くで苺農家を営んでるらしくて、そこで雇ってもらうことになったんだ」
オーストラリアの形がこんなんでと両手で形を作り、ケアンズはこの辺と桂さんは付け加えた。
「夏休み中、頑張って働いたから渡航費は十分に稼げたし、あとは農場でのんびり働きながらこれからのこと、考えるさ」
そう語る桂さんの瞳はキラキラ輝いていた。
檜も私も、こんな桂さん憧れていたのかもしれない。
「急だけど、今夜の便で経つことにしたんだ。逃げるように思われるかもしれないけど、犯してしまった罪は消えないし、今は前を向いて進んでいたいんだ」
そろそろ行かないとと桂さんは腰を上げ、バックパックを背負った。
旅たつ桂さんを見送るために再び改札口までやって来た。
「桂さん、発つ前に会いに来てくれてありがとうございました。それに、クリームソーダご馳走様でした。私、自分の気持ちをもう1度、檜に伝えてみようと思います。許してもらえないかもしれないけど。今度会う時はお互い笑顔で」
上手く言葉になってないかもしれないけれど、思ったことを口に出して言った。
桂さんはにっこり笑うと、
「I wish your luck!」
片手を上げ、改札を抜けた。
振り返ることなく進む桂さんの後姿が見えなくなるまで、私は手を振り続けた。