恋するplants
一瞬の閃きで流れるように筆が進む。
僕はパソコンにかじりつき、頭の中から溢れてくる物語をタイピングした。
「ちょっと、休憩」
ひと段落した所で椅子に寄りかかり、時間を確認した深夜1時、気付いたら2時間も経っていたみたいだ。
明日は午前中の授業があるけれど、今、乗ってるしなぁ。
もうちょっと頑張ってみるか。
僕は首と肩を軽く回し、立ち上がると、コーヒーを作りに店へと向かった。
僕、秋川楓(あきかわかえで)の実家はケーキ屋だ。
僕の父が店をオープンさせ、僕が中学2年生の時に一回り歳の離れた兄、紅葉(もみじ)が後を継いだ。
パティシエとしての才能があった兄は専門学校を出た後、有名店で修行し、才能を認められ、パリに留学した。
数々のコンクールで名を挙げ、名声と共に帰国し、店に戻ってきた。
住宅街の昔ながらのケーキ屋さんがリニューアルオープンし、フランス語の店名とオシャレなカフェスタイルの店に急変した。
当初は両親も困惑していたが、メディアに取り上げられたことから人気に火が付き、偏屈な場所にあるにもかかわらず、店は繁盛している。
年々増え続ける客数にすっかり安心した還暦を過ぎた両親は旅行に出かけたり、趣味を持ったり楽しい日々を過ごしている。
唯一の悩みと言えば、兄が独身なことだろうか。
兄は全く気にしてないみたいだけど。