恋するplants
頼もしい兄に甘えて、僕は自由に生きている。
パティシエの才能がない僕はケーキ作りよりも演劇に見せられた。
子供の頃に両親に連れて行ってもらったミュージカルを見て感動して以来、様々な劇を見てきた。
特に好きなのは作・演出をゼロから作る劇団の公演で、全てを自分たちで作る想像力と生であることから伝わる人間の生命力だとか、観客を前にした時の演者の興奮とか何とも言い表せない感情が僕を虜にさせる。
いつか、僕が所属する劇団が売れて、劇作家として成功するのが夢だ。
勉強室兼書斎を出ると真っ暗な中、足元に気を付けながら階段を降りる。
2階は兄弟の生活スペース、1階は玄関、居間、両親の部屋、そして店。
兄が新しく店をオープンするにあたり、リフォームしたのだ。
書斎のソファで寝息を立てていた愛犬、トイプードルのモンブランがいつの間にか、僕の足元に擦り寄ってきた。
「ごめん、起こしちゃったかな?」
モンブランを抱き上げるとペロペロと頬を舐めてくる。
かわいい奴。
モンブランを連れ、階段を降りた。
電気を付け、「店内立ち入り禁止」のモンブランは大人しく店へと続く扉の三和土に用意されたバスケットに入り、丸くなった。
店内に入り、電気を付け、カウンターの裏側にあるサイフォンを取り出した。