恋するplants
三和土に置かれたバスケットでモンブランが寝息を立てていた。
扉を開け、すでに甘い香りが広がっている店内を通って厨房を覗きこんだ。
中で作業をしていた兄が僕に気付き、こちらへ近づいてきた。
「お、起きた?」
爽やかな笑みを浮かべて兄は僕を見た。
「女の子いなかった?僕と同じ年くらいの」
兄はあぁと納得すると、あの子だったら帰ったよとあっさりと答えた。
「事情は彼女から聞いたよ。楓が夜中に来た自分に親切にしてくれたって感謝してたよ。ご迷惑かけましたって謝ってもいたな。楓が眠っていたから起こさないようにって静かに帰って行ったよ。その後、僕が部屋まで運んだんだ」
なかなか感じのいい子だったと兄はにやりと笑いながら僕を見た。
そんなんじゃないことは兄も知ってるだろう。
そういえば、名前訊いてなかったな。
もう、会うこともないのかもしれないけれど。