恋するplants


 三和土に置かれたバスケットでモンブランが寝息を立てていた。


 扉を開け、すでに甘い香りが広がっている店内を通って厨房を覗きこんだ。


 中で作業をしていた兄が僕に気付き、こちらへ近づいてきた。


 「お、起きた?」


 爽やかな笑みを浮かべて兄は僕を見た。


 「女の子いなかった?僕と同じ年くらいの」


 兄はあぁと納得すると、あの子だったら帰ったよとあっさりと答えた。


 「事情は彼女から聞いたよ。楓が夜中に来た自分に親切にしてくれたって感謝してたよ。ご迷惑かけましたって謝ってもいたな。楓が眠っていたから起こさないようにって静かに帰って行ったよ。その後、僕が部屋まで運んだんだ」


 なかなか感じのいい子だったと兄はにやりと笑いながら僕を見た。


 そんなんじゃないことは兄も知ってるだろう。


 そういえば、名前訊いてなかったな。


 もう、会うこともないのかもしれないけれど。


< 400 / 459 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop