恋するplants


 「傘、持って行かなかったの?」


 玄関でブーツを脱いでいると、後ろからお姉ちゃんに声を掛けられた。


 突然、降り始めた雪はみぞれのようで、私の髪とコートはすっかり濡れてしまった。


 「お土産?」


 床に置いた赤い箱を見つけたお姉ちゃんが訊いてきた。


 「あげる。落として、箱つぶしちゃったけど」


 「Un joli amantのケーキだぁ。予約したの?超、有名店じゃん!」


 嬉しそうにキッチンに向かうお姉ちゃんとは反対に私は自分の部屋に向かう。


 ・・・よく見てなかったけど、あの赤い箱ってあのお店だったんだ。


 雑誌に載ってたから行ってみようっていつかゆかりが言ってたな。


 部屋着に着替え、タオルで頭を拭きながら、キッチンへと向かう。


 テーブルの上にはお母さんが張り切って作ったクリスマスディナーが並んでいる。


 鳥のもも肉にちらしずしにスパゲッティサラダにフルーツの盛り合わせまである。


 ホントは食欲なんてないはずなんだけど、私のお腹は正直に大きな音を立てた。


 「ちえりがケーキ買ってきてくれたから、パパに電話しなくちゃ。買って来なくていいって」


 お母さんが気が利く娘になったわねと私の頭をぽんと叩いた。


 「よかった~、中の形は崩れてないよ」

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