恋するplants


 初めて自分の名前が上手く書くことが出来た時、祖父は朱色の墨汁で大きく花マルを書いてくれた。


 「芹はのびのびとしたいい字を書くな」


 祖父は皺の多い顔を更にくしゃくしゃにして笑った。


 俺の大好きな祖父の笑顔だ。


 初めて何かをして誉められた。


 俺は嬉しくて嬉しくて堪らなかった。


 学校でどんなに辛いことがあっても筆を持つ事で元気になれる気がしたんだ。


 小学生になり、日々エスカレートする苛めに耐えながら、放課後は生徒として、祖父の書道教室に参加していた。


 俺の家は、通う小学校から離れていたため、書道教室に習いに来る生徒は同年代だけれど、知らない子ばかりだった。


 苛められはしないけど、こちらから話す勇気もない。


 だから俺は友達同士で楽しそうに習っている生徒を横目に黙々と書を書き続けた。


 小学5年生の時、教室に新しい子が入った。


 彼女の名前は春風ナズナ。


 歳は俺より1つ下の小学4年生だった。


 彼女は今まで出会ったどんな女の子よりも可愛かった。


 長い髪を2つ縛りにして、いつも花柄のワンピースを着ていた。

 
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