恋するplants
中に入ると、机や椅子が部屋の隅に寄せてあり、その代わりに床には3畳分くらいの紙が敷いてあった。
ジャージ姿の先輩がにこりと微笑んで右手を差し出した。
「初めまして、書道部部長の柊瑠璃(ひいらぎるり)です」
「1年の白根芹です」
思わず自分も右手を差し出す。
俺、別にやるって言ったワケじゃないんだけどな・・・困った顔をしていたのを柊部長に感付かれたみたいだ。
部長は笑顔のまま訊ねてきた。
「いきなりパフォーマンスで書道やろうって言われてもピンと来ないよね?」
「・・・はい・・・あ、映画とかテレビでちょっとは見たことあります」
「そう?それなら話は早いわ。要するに、巨大な紙に流行歌だったり、本の一節だったりを揮毫(きごう)する、あ、毛筆で書くことね。それをするの。今日はそんな大きな紙じゃないけど・・・まずは、見てもらおうかな?」
ジャージ姿の他2人の先輩が俺と丸太さん、そしてお豆くんの分の椅子を紙の前に設置した。
墨汁を入れたタライをビニールシートを敷いた床の上に置くと、普通の何十倍も大きいどしりと重量感のある筆をその中に浸した。
部長がジャージを腕まくりし、俺たちの前で一礼をすると上履きを脱いで素足で紙の上に立った。
「行きます!」
気合いの入った声を出すと、1人の先輩が筆の入ったタライを部長の傍まで持ってきた。
部長は筆を両手で掴み、目を瞑り、深呼吸をした。