いつか、きみに、ホットケーキ
13. 隠し事2


よく考えてみたら、怒ってると言われるほど声を荒げた自分がよく分からなかった。大沢が撮影中なのも分かってたはずなのに、撮影の都合も考えずに電話をかけてしまったことも反省しきりだった。さっきの自分を思い出すと自分自身に苛立ちを覚える。

真夏の午後はどちら側を歩くとビルの陰になっているのか無意識に選びながら、事務所を出て駅までの道を早足で歩く。次第にじっとりとするTシャツの背中が気持ち悪いな、と思う。

地下鉄の階段を下りる寸前に電話が鳴る。
「はい!!」
「吉岡です。お疲れ様です。宮森さんとこ今出ました。」
「なんだ、吉岡くんか・・・あいよ、分かった。よろしくね。間に合うよね?」
「はい、言われたとおりに言って出てきました。大丈夫です。」
「うん。じゃ、後ほど。」
「はい、よろしくお願いします。」

吉岡も悪くはない。素直だし真面目だ。助手になって結構経つし仕事自体には慣れているから撮影ごとにいちいち指示したり確認したりしないといけない事もないし。まぁ、可も無く不可もない。つまり、大沢がいない撮影も最近やっと慣れてきた、のかもしれない。

それにしても結婚・・・。
そしてまた昼間の自分をイライラと思い出した。


いつだったか、大沢が「みずくさい」と言う言葉を使ったことがあった。そうだ、あの時・・・。個展の準備中に寝不足で具合が悪くなったときだった。

『なんかおかしいって思ってた・・・楽しそうだからいいやって思ってたけど・・・こんなんなるまでやりたいことがあったんなら、どうして言ってくれなかったんですか?』

大沢の少し苛立った表情を思い出す。そうだ、確かに怒っていた。『水臭いじゃんか、当然言ってくれていいはずのことを、どうして俺に黙ってるの?』そんな思いが怒りになる。


どうして黙ってるんだろう・・・。

俺は、どうして黙ってたんだろう・・・?

仕事じゃないから・・・?それもある。でも、仕事以外の自分のことだって結構色々話した。学生時代のこと、幼かった日の出来事、自分のアシスタント時代の話も、友達の事、親のこと、恋人の事。大沢が湖山のことで知らないことなんて殆どないのではないかと思うくらい。でも、あの個展は菅生さんへのラブレターだった。自分一人でやろう、と思った。だから言わなかったのだ。そこまで考えてもう一度考え直す。学生時代の友人には手伝いを頼んだのに?どうして大沢にだけ頼めなかったんだろう・・・。
よく分からない。近すぎて、何となく、そう・・・、なんとなく。


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