いつか、きみに、ホットケーキ
21. モヤモヤ

「なんか、スッキリしない」
「何が?」
「なんつーか、こう・・・」
「モヤモヤする?」
「うん。」
「これ、どう?」
「あー・・・いいんじゃない?」

菅生さんが新しいスーツを買う、という。11月の結婚式に呼ばれているので、会社にも着られそうなちょっとよいスーツを買うので美味しいものでも食べながら出かけよう、という。これは、端から見たらちょっとしたデートのような気がするけど、湖山はもうそんなことは気にしていない。

「もっと綺麗な色の方がいいと思うけどね、僕は」
「うーん、でもそうすると会社に着ていけないじゃない?」
「なんで、着ていけばいいじゃん?」
「いやなの。」
「そう?あ、そうだ、あのワンピース良かったじゃん、玉虫色の。上山さんの結婚式の時着てた奴。すごい似合ってたけど。」
「いつもあれなんだもん。」
「ふーん。別にいいと思うけど。」
「それに寒いよ、あれだと。」
「はいはい。とにかく早く済ませようよ。腹減ったし」
「あぁあ、やっぱり男と来るんじゃなかったね・・・どうしようかなあ、こっちにしようかなー」

もう直ぐ大沢が結婚する。

白いご飯を美味しそうに食べる大沢を思い出す。そう、あいつは結婚が早いだろうなあと思ってた・・・。鍋、焼肉、酒、うどん、ラーメン。食べながら笑ったかと思うと真剣になる大沢。大雑把だなと思うほど寛容かと思うと、どうしてだか妙な事を真面目に考え始めたりする。そういう時、急に箸が止まる。最近、あいつと飯食ってねえなあ・・・。

いつも冗談ばかり言っていつになったら学生気分が抜けるのかと思う位軽いくせに、そうかといえば7,8年のキャリアをしっかりと見せ付ける事もある。こんなに大人になったんだと思う一瞬がある。

  『こんなんなるまで・・・!!』
そう、そんな風に叱られたこともあった。

あの夜は、夜中にホットケーキを焼いてくれた。食べられなかったけれど。そう、真っ黒になったホットケーキ。

『湖山さんが食いたいって言ったから』

それから・・・。菅生さんに振られた日、何も言わずに側にいて、ホットケーキが食べたいって言ったら、得意そうな顔で綺麗なホットケーキを焼いてくれたな・・・。

『彼女にやってやれよー』
『やってあげますよ。いつかね。本番前に練習しただけですよ・・・』

ホットケーキ、作ってあげたのかなあ・・・?

『結婚しないの?』
『えー?・・・』

少し困ったように微笑む大沢を思い出す。そう、彼はたまにそんな風に微笑むことがあった。妙に大人っぽい大沢の意外な一面。


「湖山さん?」
「・・・あ?」
「スッキリしないのね?」
「・・・うん。」
「ご飯食べにいこ。私もご飯食べながら考える。」
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